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'04年の初めてのイタリアツアーのあと、ツアーでフラストレーションがたまり、ルネサンスやフィレンツェ のことをもっと知りたくなり読み始めたもの。「地球の歩き方」では、著名な作品についての紹介はある が、現地でそれ以外の多くの建築物、教会、絵画など美術作品に出会い、知りたくなった。全て読後の印象などの個人的覚書き。

その時々の旅先により情報を探したが、当初ルネサンス中心だった関心が徐々に中世や初期キリスト教美術にまで時代を遡ってきている。各図書には、著者の研 究 成果や参考文献が載っているが日本語で読める図書資料が少ないのは残念。特に、イタリア中世について、素人が読めるものが少ない。

大まかな分類は、書名によるものでなく、内容によりウエイトの高いテーマでグループ分けしたもの。内容はどの図書も重なり合い、厳密には分類できない。ま た、文庫化されたものとか、改訂版などがあるが、古書店で見つけたものなどその時々で入手し読んだ図書についてのもの。イタリアの中世・ルネサンス美術研 究はどんどん新しい知見が紹介され、古書での知識が否定されたりしているので、有名学者の著作といえども確定されたものでない、ところも面白い。


中世まで ルネサンスバナー 絵画の見方 街情報バナー



ペスト後のイタリア絵画 ルネサンスのイタリア画家
シンボリック・イメージ
フィレンツェ
中世の美術 イタリア絵画史
イコノロジー研究
フィレンツェ
中世イタリア絵画 美のチチェローネ
ルネサンスの春
フィレンツェ絵画と社会的背景
ロマネスクの図像学 イタリア・ルネサンスの文化
美術史の基礎概念
フィレンツェ史
ゴシックの図像学 イタリアの美術
絵画を読む・イコノロジー入門
フィレンツェの石
中世末期の図像学 古典美術
マニュエリスム芸術論
フィレンツェ・ミステリーガイド
ヨーロッパのキリスト教美術 イタリア・ルネサンス美術史
芸術と狂気
フィレンツェからの手紙
ゴシックとは何か ルネサンス
バロックの光と闇
メディチ家はなぜ栄えたのか
ゴシック建築とスコラ学 ルネサンスの光と闇
美の思索家たち
緋色のベネチア
中世とは何か 薔薇のイコノロジー
絵画の見かた
ローマ・ミステリーガイド
中世の秋 ルネサンスの歴史
寓意の図像学
ローマ
ヨーロッパの中世哲学 異教的ルネサンス
キリスト教図像学
塩野ローマ人コンプリートガイド
中世ヨーロッパ生活誌 ルネサンス画人伝
マグダラのマリア
シエナ・夢見るゴシック都市
ヨーロッパ中世の修道院文化 イタリア美術の旅
聖書の名画はなぜ面白いのか
ボローニャ紀行
中世絵画を読む イタリア・ルネサンスの扉を開く
アートバイブル
南イタリア・シチリア紀行
美術から見る中世ヨーロッパ イタリアルネサンス美術の水脈
ルネサンスの異教秘儀
須賀敦子のアッシジと丘の町
ビザンチン美術 天使たちのルネサンス
建築と都市の美学
イタリア歴史の旅
イスタンブール歴史散歩 フレスコ画への招待
ルネサンスの神秘思想
都市のルネサンス
イスタンブールの大聖堂 フレスコ画のルネサンス
美術の物語
物語 イタリアの歴史
コンスタンチノープルの陥落 ルネサンスとは何であったのか
美術の歩み
イタリア小さなまちの底力
中世シチリア王国 イタリア古寺巡礼

イタリア・都市の歩き方
12世紀ルネサンス イタリアルネサンス

イタリアものしり紀行
大聖堂 イタリアルネサンス

イタリア美術鑑賞紀行TーZ
ローマ美術 ルネサンスの大工房

イタリア都市の諸相
キリスト教美術の誕生 ルネサンスと地中海

ヴェネチア・ミステリーガイド
ユスティニアヌス黄金時代 イタリアルネサンス美術論

イタリア中世の山岳都市
大聖堂のコスモロジー
ピエロ・デッラ・フランチェスカ


イタリアの中世都市
ヴァザーリ


西欧の美術1 ロマネスク
イタリア絵画


西欧の美術2 ゴシック
ルネサンス


ロマネスク美術革命
イタリア・ルネサンス


中世の巡礼者たち
ありがとうジョット


中世彫刻の世界
ルネサンス 歴史と芸術の物語



イタリア美術



北方ルネサンスの美術



イタリアルネサンス再考



ヴェネチア 美の都の一千年



イタリア美術史7講




中世まで
「ペスト後のイタリア絵画」
ミラード・ミース 著   中森 義宗 訳  中央大学出版部 1978年
ペスト後のイタリア絵画表紙美 術史の書籍の参考図書によく挙げられているので関心があった。主要なイタリアルネサンスの美術作品案内では、ジョット以後、マザッチョまでの空白期間の紹 介は殆んどない。この疑問に答えてくれるもの。あわせて、イタリア各地の教会や美術館には巨匠以外に多くの美術家の作品があり、オルカーニャ、タッデオ・ ガッディなどそうした美術家についても教えてくれる。1340年代のトスカーナの社会、政治、経済の混乱とペストによる荒廃と停滞が、教会への保守化と美 術家のジョット以前への回帰へと向かわせた。本書は、パノフスキーの図像解釈学を学び、ベレンソンの実証研究を身につけたミースの1950年に出版された ものの訳本。副題に、14世紀中ごろのフィレンツェとシエナの芸術、宗教、社会とある。優れた著作といえよう。シモーネ・マルティニなどの謙遜の聖母につ いての論文(1936年発表)も含め、多くの図版が紹介され、詳細な原注も読み応えがある。初期ルネサンス美術を知るには必読と思われる。

「中世の美 術」 
グザヴィエ・バラル・イ・アルテ 著   西田 雅嗣 訳 文庫クセジュ836 白水社 2001年
1991 年出版の原著の日本語訳。西欧を歩くと修道院や大聖堂に代表される中世美術に感動しつつ、もう少し理解できれば、と思うことがたびたびある。新書版なが ら、全体は中世美術をまとめたものではないが基本をとても理解させてくれる。中世美術は第2章にまとめられている。第1章では、中世芸術を見る視点とし て、年代の考察と歴史の概要、異文化との関係、修道院文化などについて概説してくれ中世美術の見方を教えてくれる。第2章では、ロマネスク、ゴシック、中 世末期というくくり別に建築などを紹介している。わかりやすく中世を分析しつつ理解させてくれ、入門書として優れている。中世美術研究と題される第3章は 中世の研究についての解説というユニークな内容。素人にはうれしい中世研究者、美術史学者の視点や研究の概要を教えてくれ、図書や研究者を選ぶヒントが豊 富にある。皆目理解できなかった中世美術を知る手がかりを与えてくれた。巻末の参考文献リストや建築図版、美術館紹介なども役立った。中世関連図書をこの 本から当たれたし、マンハッタンのクロイスター美術館に行くきっかけともなった。

「中世イタリア絵画」
フランソワーズ・ルロワ 著     池上 公平、原 章二 訳 文庫クセジュ850 白水社 2002年

イ タリア美術については、ルネサンス期の日本語で読める著作や研究書がそこそこあるが、ルネサンス以前の美術を紹介してくれるものは少ない。イタリアを歩く と古代遺跡も多いが中世美術もたくさんあり、美しく感動すると共にもっと知りたいと思う。フランス中世についてはエミール・マールなど多くの研究書がある がイタリアの中世についてはアンドレ・シャステルのものはあるが少ない。 しかもトスカーナ周辺のものだけでなく、北イタリアのロンバルディアやヴェネ ト、中部のボローニャ、マルケ、南のナポリなど中世イタリア各地の現在見ることのできる作品を幅広く取り上げてくれ、それぞれの地域や年代の特性の概略を 紹介してくれる。また、素人にわかりやすく西欧史の中の西ローマ、東ローマ、ビザンチンとの関係など歴史の概要をわからせてくれるので理解しやすい。中世 美術は、古代ローマと初期キリスト教美術と根を一つにするもので、ビザンチンや東方世界、異教との影響が大きい。13世紀サンフランチェスコ聖堂の建立に よりイタリア各地から美術家が集まり、交流したことでジョットのそれまでの美術と一線を画す絵画が生命力を得、トスカーナのルネサンスを準備することにな る流れが良く分かる。本書のおかげで、トスカーナ以外のエリア、ラヴェンナなどを知ることができた。但し、古代から14世紀までの幅広い時代と地域を紹介 してくれるため、それぞれの時代区分の特徴と地域を扱うため、流れがわかりにくいことはある。

「ロマネスクの図像学」 上巻・下巻
エミール・マール 著  田中仁彦、池田健二、磯見辰典、成瀬駒夫、細田直孝 訳 国書刊行会 1996年

西欧の古い街 や教会には、何をあらわしたのかも、いつの時代ともわからない建築彫刻が数多くある。キリスト教について知らない我々には尚更である。
本 書は、エミール・マールの中世フランスの宗教芸術に関する3巻からなる大著の第1巻にあたる、12世紀フランスの宗教芸術―中世の図像の起源に関する研究 (1922)の訳である。進歩主義的歴史観という当時の環境からか、暗黒の中世という見方でなく、ゴシックに先立つロマネスクという視点で、初めて中世の 図像に注目した。図像の意味と出自を博識のある広い視野でフランス12世紀の宗教美術(大半が、教会・修道院のタンパンや柱頭装飾であるが)を分析したも の。ギ リシャ・ローマ様式とシリア・メソポタミア様式の流れのある写本をもとに、主にクリニュー系修道院が伝播させた。写本だけでなく、典礼や儀礼が創造的装飾 を増幅させ、そこでは、サンドニのシュジェールの力が大きかったこと、寓話の取り込み、聖母像は、巡礼路が広がりの核だったことなどを明らかにしている。 著者の個性か、全てがフランス中心の発想で語られ、異教の影響が殆んど考慮されていないなど疑問を抱かせるが、豊富な実証的な図像の扱いはすごい。岩波文 庫の「ヨーロッパのキリスト教美術」は、本書を含むエミール・マールの中世図像学の要約だが、そこではあまりに要約されすぎて理解できなかったところが多 いが、本書では、著者の主張は理解しやすい。

「ゴシックの図像学」 上巻・下巻
エミール・マール 著    田中仁彦、池田健二、磯見辰典、細田直孝 訳 国書刊行会 1998年

      13世紀のフランス宗教芸術(1898)の全訳。3巻からなるエミール・マールの中世図像研究のうち、一番最初に書かれたもの。序言で、
中世の図 像研究に対するスタンスを述べている。初期キリスト教神学者の多くの著作の研究を通じて代々語られていることはほとんど変
わりがないことを明らかにし、中 世の大聖堂に見られる図像には、教会のシナリオ通りの図像が刻まれていることを明らかにしている。中
世の図像を自由主義の発露と解釈したビクトルユーゴー らの主張には全く根拠はなく、カトリック教会の意思が全ての図像をコントロール
していたことを分析している。中世の図像は、キリスト教の教義を決められた とおりに表現し厳密に規則性があったこと、象徴性を常に意
識していたことをまず指摘する。ヴァンサンド・ボーヴェの鏡の4部作にのっとり自然、学問、道 徳、歴史という視点で図像を分析していく。
フランスの大聖堂の全てを解析したかのように膨大な図像に対し、多方面の歴史書や写本、新約・旧約聖書、福音 書、外典、聖務日誌
、儀典などあらゆる資料から図像の根拠を証明する。ロマネスクの時代が農村社会を基盤としていたのに対し、農村出身であってもゴシ
ック は、都市型住民の社会が基本となって成立する大聖堂の時代であることなども漠然と伝わってくる。シャルトル、アミアン、パリ・ノート
ルダム、ラン、ラン ス、ブールジュ、リヨン、サンス、ルーアンなどのフランスの大聖堂に残る彫像やステンドグラスの図像をその忘れられて
いた意味と象徴、図像を明らかにす る。

著者は、フランスのカトリック神学者のように語る。おかげで、キリスト教を理解していない素人に、そのテーマの意味や内容、元になった
原典の内容なども合 わせて教えてくれる。巻末には図像の索引もある。また元本の目次も巻末にあるが、こちらの目次のほうが、内容を
表していてわかり易い。なぜ、元本どおりの 目次にしなかったのか。

「中世末期の図像学」上巻・下巻
エミール・マール 著    田中仁彦、池田健二、磯見辰典、平岡忠、細田直孝 訳 国書刊行会 2000年

エミールマール3論文表紙フ ランス中世末期の宗教芸術(1907)の全訳。3部作の最後のもの。14世紀末から1563年のトリエント公会議までを対象とする。イタリアと違いフラン スでは13世紀同様、諸規則にのっとった図像が継続していた。しかし、イタリアから多くを受け取る立場となっていた。また、書物によって説明されない作品 はないことも13,14世紀と同様であった。写本挿絵、版画、宗教劇などからが、図像のもとである。中世末期にはキリスト教の歴史と教育的狙いの2つが テーマであった。しかも14世紀までの象徴主義は弱められ、感情表現を備えたものとなった。素人目にも大きく変化した。キリスト教にまつわる教育的要素も 手段を選ばなくなり、感情に訴える図像が多く発生し、人間的なリアリズムを高めていくことになった。テーマの上でも死や死の舞踏が現れた。一方、こうした 中世の図像は、イタリアルネサンスの影響以上に、宗教改革による1563年のトリエント公会議による図像表現の見直しにより一気に衰えることとなった。そ れまでの民衆的な素朴な信仰や無邪気な図像は禁止され、宗教改革による批判精神を乗り越えられず、中世美術は消滅した。

「ヨーロッパのキリスト教美術」上巻・下巻
エミール・マール 著    柳 宗玄、荒木 茂子 訳  岩波文庫 1995年

原題は「12世紀から18世紀にいたる宗教美 術」で1945年に発行された。エミール・マールの大著4部 作から抜粋し、著者自身が小文でつないで1冊の本にまとめた概 要本。若干唐突なところがある上、専門的で分かりにくいところがあるが、中世からのキリスト教美術を知るにはよい。ちなみに、元の4冊とは、「フラン ス13世紀の宗教美術(1898)」「フランス中世末期の宗教美術(1908)」「フランス12世紀の宗教美術(1922)」「トレント公会議後の宗教美術(1932)」で、それらの日本語訳本も出ている。北フ ランスを中心とした大聖堂に取り込まれた多くの彫刻、ステンドグラス、建築などの図像を自然、学問、道 徳、キリスト教史の4つの視点から図像を体系化し分析。近代には、キリスト教関係者でさえ、図像の意味がわからなかった時に幅広い研究から解釈し た。この4部作により、キリスト教美術を形態学的に研究した大家アンリ・フォションと並ぶ美術史家となった。イタリアの中世やル ネッサンス美術そのものを論じたものではないが、フランスの中世美術の成り立ちを理解させてくれる。肝心の図像体系は多すぎて覚えきれない が、フランスの有名なゴシック大聖堂を見るには必携の研究書である。4,5世紀からのギリ シャ、シリアなどからの東方美術の影響、12世紀の修道院中心の文化、巡礼の影響、13世紀の中世図像の成熟期には美術が教育と考えられ、象 徴性が取り入れられた。その後、宗教改革運動を経て、図像への多様な変化の時代となったという流れまでが理解できる。本書よりもそれぞれの単行本のほうが 理解しやすい。
「ゴシック とは何か〜大聖堂の精神史」
酒井 健 著    ちくま文芸文庫   2006年

ゴ シック、ゴシック大聖堂についての基礎情報からはじまり、キリスト教が自然に対する意識や地母神などを取り込み、ゴシック大聖堂が生まれた11世紀末か ら、14,15世紀フィレンツェを中心としたルネッサンス文化や宗教改革などによるゴシックの否定の時期、さらに、18世紀からのゴシックの復活から近代 までを宗教、社会、文化など幅広い視点からゴシックを考察している。
それらの過程で、中世絵画の逆遠近法の視点や、印象派など近代絵画への流れなど、ゴシック大聖堂だけでなく、偽ディオニュシオスの“光の神学”の取り込み などキリスト教と中世哲学との関係やイギリス庭園、エッフェル塔などを含め西欧におけるゴシック復活など絵画や建築の分野のみならず、哲学、文学との関係 など多くの視点から考察されている。素人には、なるほどと関心してしまう点が多く、単なる建築史ではなく文化史としてのゴシック大聖堂を理解するには非常 に面白いし、ためになる。
巻末には、豊富な参考資料リス トがあり、中世を理解するための先人の智恵として日本語で読める中世やゴシックなど参考図書がわかるのも嬉しい。

「ゴシック建築とスコラ学」 
アーウィン・パノフスキー 著      前川 道郎 訳    ちくま文芸文庫   2001年

原著は1951年 発行。1989年平凡社から刊行されたものをさらに文庫化したもの。パノフスキーの中期の著作。西欧中世においてゴシック建築とスコラ学は、その社会・文 化の2大分野といえる。その2大分野の間には、特に、1130年から1270年のパリ近郊の地域的エリアにおいて、高密度な集中的局面があった。そこに は、行為を規制する原理=精神習慣として強い影響関係が認められるとし、西欧文化史への新しい視点をもたらした。スコラ学におけるマニフェスタティオ(顕 示=明瞭化)として理性による信仰の明瞭化が多くの社会文化に影響を与え、とりわけ建築分野には明確に現れた。建築へのスコラ学的思考の反映として、変化 の過程・影響を分析している。論考の理解を助ける図版もついているほか、5つの章ごとに詳細な注が用意されている。それでも専門的用語、建築用語が多用さ れ、素人には難解。巻 末には、建築史家である訳者のゴシック建築をめぐる論考がまとめられており、パノフスキー以降の多様な論考、研究成果も紹介されている。

「大聖堂のコスモロジー」
馬杉 宗夫 著                  講談社現代新書1120        1992年

中 世美術は近現代の自立的な美ではなく、建築、絵画、彫刻などが独立したものと見るべきものでなく、キリスト教世界の宇宙観を表現したもの。大聖堂はキリス ト教の教化のための統合性にあるとの視点で大聖堂を紹介。わかりやすい文章で、教会堂の起源、修道院建築、大聖堂の成立という時間の流れに沿って紹介。大 聖堂の高さへの希求、ステンドグラス、アプシスへの導き、床の迷路などを解説してくれ、入門書の内容となっている。論述のモトはアンリ・フォションの「西 欧の芸術」、エミール・マールの「フランス13世紀の宗教美術」、パノフスキー「ゴシック建築とスコラ学」の著作内容が踏襲され紹介する域を出ていないと 思う。それもあってか、先達の研究成果そのままにフランスの大聖堂の紹介に限られている。著者の論は、それら先達の研究成果は教会堂建築の全体像、象徴性 という視点が欠けているとしているが、先達の研究者にとってそれ以前の研究内容で象徴性や全体像は大前提のことでありそれぞれの著作をみれば明らか。また 教会堂の起源でもグラバールの著作などの成果が反映されているのか、建築家の評価を巡る記述も意味を取り違えているのでは、と思わせるなど、新書版という 限られた範囲でふれられなかったのかわからないが、素直に読めなかった。 美術史の研究は他の学問同様に、新しい知見により先達の研究成果が必ずしも正し いとは限らないことが多くあるが、現時点でどれが正しい評価か混乱することが多々ある。本書の記述は研究成果の更新がなされたのか疑問に感じた。


「中世とは何か」 
ル・ゴフ 著       池田 健二、菅沼 潤 訳  藤原書店 2005年

ルゴフ本表紙自 らの生涯と研究・著作について、ジャーナリストのモントレミーのインタビューに答える形で語った内容。歴史を文化人類学的視点から再構築するアナール派と いう学派の重鎮。自らは不可知論者=神を信じないものと語っている。研究内容を語るといっても、中世を従来の時代区分や暗黒の中世というイメージを変える 視点での研究として、中世の社会、および、現代の西欧にまで続く文化を論じている。明確な時代区分による中世を否定し、ルネサンスも中世の一部として17世 紀まで続き、現代の西欧社会の動向にもその根が続くと分析。単なる学究派ではなく、一般への広く発信する著者の哲学の吐露でもある。中世がキリスト教によ る西欧の世界構築であったことを念頭に、初期キリスト教から、いかに三位一体や聖母信仰など神学論議により管理体制を構築してきたか、それが、中世社会に どのように生まれ、どのように変わってきたか、キリスト教の変遷と異教の取り込み、戦争の肯定など現代西欧社会など現代とつながる点の指摘など研究テーマ の内容ポイントを解説するとともに、歴史学そのものも問うてきた著者自身を語っている。特に、キリスト教の教義や聖書がわからない我々には教義がいかに中 世社会の中で改変してきたか、深い論文でなくポイントを語ってくれ解りやすい。インタビューということもあるのか、西欧、特にフランスの歴史研究成果をも ととした中世社会分析になっていると思われる。本書は日本語訳だけの注が充実しており、素人向けではないが学究派向けのような中世フランス歴史学の研究 者、著作も紹介されている。

「中世の秋T、U」
ホイジンガ 著       堀越 孝一 訳 中公クラシックス  中央公論社 2001年

        副題に、フランスとネーデルランドにおける14.5世紀の生活と思考の諸形態についての研究とある。14,5世紀を初期のルネサン
スとしてとら れるのでなく中世の終末とし消え行くものとしてとらえたらと構想し、また、ファンアイクの芸術を理解するためにブルゴーニ
ュ地方の社会と文化を含む時代と 生活を把握するために書き始めた、と1919年の原著に著者自身が書いているらしい。しかしブルゴ
ーニュに限定することが結局はできず中世後期の西欧社会 と文化について、著者の博学な知識をもとに、身分社会、騎士、信仰にお
ける象徴主義、神秘主義、美に対する感覚、哲学や宗教などについて論文的ではなく、日 常生活における思考、信仰など中世の社会全
体像を描こうとしている。研究成果であるが、研究論文というより知識による著述として多くの詩文などを例示しな がら中世人の思考過
程を分析、紹介する。古典的名著といわれ、通読したものの一度読んだだけでは、それぞれの章は理解できたものの、全体としてどう
だとま とめることが難しい。社会生活、個人生活のあらゆる側面を含んでいるので、読後、箇条書き的に中世末期はこのようなもの、と
要約することがむずかしい。


「ヨーロッ パの中世哲学」
エドワール・ジュノー 著   二宮 敬 訳  文庫クセジュ  白水社 1964年

中世美術は、ほとんどが宗教美術であり、西欧 ではキリスト教と関連する美術がほとんどである。その中世美術を少しでもわかりたくて背景となる社会や思想を知りたいと思うが、素人 にわかりやすいものはない。専門家・研究者向けにはエティエンヌ・ジルソンの「中世の哲学」の翻訳本はあるがかなり難解。入門書としては、本書くらい か。本書は9世紀〜15世紀までの古代哲学とデカ ルト以前との間の哲学の流れを紹介してくれるもの。原著は、「中世の哲学」(1963)。中世哲学は、それ以前のギリシャ、ヘレニズム の哲学からキリスト教に取り込めるものを取り込んだところからスタートしているようだ。中世は、修道院、教会が教育・研究を独占していたので、主 導したのは教父、教会著述家、世俗の作家というものの、キリスト教神学とどう違うのか全く解らなかった。アリストテレス、プラントン、 アウグスティヌスからペトラルカまでの思想の流れを紹介してくれるが、スコラ哲学に元をもつとされる中世哲学を経てルネサンスを主導したフィチーノに つながる。入門書とはいえ神学論議の変遷のようで、私のような素人にはやはり難しい。

「中世ヨー ロッパ生活誌」
堀越 宏一 著           NHK出版 (NHKカルチャーアワー) 2008年


NHKラジオ のカルチャーアワー、歴史再発見のテキスト。中世と初期ルネサンスとは殆んどが漸進的な移行、変化であり、時間的、地域的なずれによりヨーロッパ内でも ずれは大きい。しかも、中世関連で素人が読める文献や図書資料は、フランスを中心としたアルプス以北の情報が中心となっている。こうした中で、本テキストもフランス中 心ではあるが、中世社会の誕生、形成や美術、建築の背景となる文化的、社会的背景を骨太に理解させてくれる。12回の放 送内容にあわせ、簡潔に12のテーマで中世の社会の成り立ちや社会を解説してくれる。研究書や論文ではないので、一つ一つについて詳細な分析検 証をしているわけではないが、口語体でポイントをおさえ、解りやすいし、納得できる中世文化の解説となっている。各論の裏づけ資料とし ての図版、写真もけっこう載っている。冒頭段階では、ローマ 帝国崩壊後のガリアへの東方文化、イスラム文化、オスマントルコの影響や十字軍のもたらした12世紀ルネサンスなど中世の誕生と形成について の大略も示してくれる。中世の封建制のもとでの農業や鉄器の動向、服飾など中世社会が単に、暗黒時代というイメージでなく理解させてくれる。

「ヨーロッ パ中世の修道院文化」 
杉崎 泰一郎 著         NHK出版 (NHKカルチャーアワー) 2006年

NHKラジオのカルチャーアワー、歴史再発見 のテキスト。西欧の中世は宗教、特にキリスト教会が大きな力を持っていた。11世紀 には聖職者階級が出現していた。部外者にはキリスト教の教義や教会と修道院の違いすらわからないことだらけで、西欧美術を見て美しいとは感じてもそれ以上 のことはわかりにくい。修道院というと社会と切り離された隠遁生活で修行しているイメージがある。ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」ではミステリー仕立 てであるが、中世の修道院生活や周りの農民などとの関係などが、どこまで創作であるのかわからいが描かれ、智恵の独占と経済的役割を教えてくれた。本テキ ストは、さらに広い範囲で中世の修道院がどのようなものであったか、社会との関わりや文化について、26の章立ての中で解説してくれる。美術との関連での紹介は少ないが、ルネサンス 期の動きには多少触れてくれている。

「中世絵画 を読む」
辻 佐保子 著   岩波セミナーブックス20 1987年

古代以降の中世絵画は、一見、キリスト教美術 として皆同じに見えてしまう。そうした中世美術の見方を教えてくれる。初期キリスト教美術は、霊的な不可視の世界を見せ るものという基本的理解にたって、著者の関心テーマの一つである“モノクロミー(単色彩色)による異次元化”という視点で古代末期からルネサンス 以前までの1000年間のキリスト教絵画、中世絵画を解説してくれる。取り上げられている作 品は、時祷書などの写本や東方キリスト教美術、ロシアのイコンなど通常、目にすることがない絵画を中心として組み立てられている。馴染みのな い事例が多く、各作品や作家については素人には初めて聞くものが多い。また、専門家の用語がそのまま使われていて解らない単語も多い。セ ミナー内容のテキストのままのようで、映像による作品の構成、構造を説明しているが、肝心の図版が少なく、また、モノクロ図版での色の説明で解説 内容が正確にはわかりにくい。中世絵画を鑑賞する見方というより、中世絵画の構成、構造の研究成果の発表という印象ではあるが、中世のキリスト教美術が初期からい かに変遷していったかを理解させてくれる。

「ラルース ビジュアル版 美術から見る中世 ヨーロッパ」
ジャニック・デュラン 著             杉崎泰一郎監修 吉田春美 訳 原書房 2005年

      ヨーロッパを歩くとどこでも大聖堂などの建築、装飾、彫刻、ステ ンドグラス、モザイク、フレスコなどを目にする。単に美し
いというだけでなく、誰 が、何を意図して作ったのか、何の意味があるのか、と考えさせられる。バロック以後の絵画や美術
館に入れば、解説もあるが、街歩きでは疑問は尽きない。特 に、我々には宗教美術の意味が解りずらい。ルネサンス以
前、中世となればなおのことだ。いたるところにあるだけに知りたくなる。学者の論文では素人には 難解すぎ、図版が多い
ほど助かる。本書は、ルーブルの中世美術を専門にする著者が
5世 紀から15世紀までの中世美術の全体的流れを9つの
区分により章立てして解説を加えてくれるもの。特に、ローマ帝政後期〜民族大移動の時期やカロリングル ネサンスなど
初期中世までの流れは入門書が少ないので概略を知るには嬉しい。絵画だけでなく建築、彫刻、工芸品などの幅広い分
野を図版とともに、背景とな る時代にも触れてくれる。西欧美術にはビザンチン美術の影響の大きさを感じさせる。巻末に
4世紀から15世紀の概要年表もついていて図版の索引ともなっている。

「ビザンチン美術・美術選書」
ポール・ルメルル著        辻 佐保子 訳 美術出版社  1964年

ベネチア・サンマルコ聖堂、聖 プデンツアーナ教会、パレルモのパラチーナ礼拝堂、マルトラーナ教会、ローマのコンスタンツァ廟、イスタンブールの聖ソフィア、カッパドキアのギョレメ洞 窟教会などのビザンチン美術はどういう美術かを知りたかった時に出会った1冊。「Le Style byzantin  1943年」の辻 佐保子氏の全訳。ビザンチン美術に関して、教科書のように、全体的に解りやすく理解させてくれる。 2次元的で、抽象化した表現などわかりにくい美術であると同時に、世界史の中でも馴染みのないビザンチン帝国の美術ということも一因である。 この美術の 根本は、信仰と帝国の政体との一体化の中にあり、1100年の間継続した独自の美術であることを理解させてくれる。歴史的背景としてビザンチン帝国の歴史 とビザンチン美術の共通する特徴を要領よくまとめてくれてもいる。各論では、建築、絵画、彫刻、工芸、写本、織物などを著作の時点までの先人の研究成果を 取り込み解説している。補強する図版や資料も用意されている。訳者によれば、ビザンチン美術のほんの入門書でしかない、とのことだが、基本的なことから教 えてくれており、初期キリスト教美術を鑑賞するためには非常に参考になる。

「イスタンブール歴史散歩」
渋沢 幸子、池澤 夏樹 著      とんぼの本 新潮社 1994年

 ヴェネチア・サンマルコ聖堂の4頭の騎馬像 はもともとコンスタンチノープルにあったもの。それをドナテッロなどイタリアの美術家を通してルネサンス期以降のリアリズムへとつながっていったものであ り、イタリア・ルネサンスとイスタンブールとの関係は深い。いつか行ってみたい、と思っていたときに読んだ本。本書はイスタンブールの市街地を歩いて楽しむ ためのガイドとして優れている。ミナレットやドームをもつジャーミィーが数多くある中からイスラム教徒でなくても見られるところとしてアヤソフィア、トプ カプ宮などの名所以外も多く紹介してくれる。個人旅行ではむずかしそうで、イスタンブールになるべく時間をとれるツアーにしたが、それでも本書で紹介され たカーリエ・ジャーミーなどは行けなかった。ビザンチン美術についてはそれほどの分析はないが、どこで、どのようなものが見られるかは具体的でいい。巻末 には、著者が作成したBC667年から1992年までのイスタンブール年表、ビザンチン皇帝歴代表、オスマントルコのスルタン家系図がまとめられている。
「イスタン ブールの大聖堂 〜モザイク画が語るビザンティン帝国」
浅野 和生 著                         中公新書
1682     2003年

西欧中心の歴史観からの世界史が一般的で、古 代から中世にかけては、東欧や中近東の歴史はなじみがない。ローマの四帝時代の後、首都をコンスタンチノー プルに移し、帝国分裂後、東ローマ帝国となりオスマントルコに滅ぼされるまでの1000年間続くビザンティン帝国の基本的知識がわかる。特に、アヤ ソフィアのモザイク画についての研究成果を解りやすく解説してくれる。イタリア美術のなかで もモザイク画を中心にビザンティン美術の影響を受けたものが多く残っており、その起源としてのビザンティン帝国を知りたくなった人に良い参考書。 また、イタリアルネサンスとも、ヴェネチアとの関係や交易、十字軍、思想や学者の移動などにより強い関係があるるコンスタンチノープルを訪ねるには読んでおきたいガイドでもあ る。
「コンスタ ンティノープルの陥落」
塩野 七生 著            新潮社 1983年

コンスタンチノープルとイタリアには深い関係 がある。ルネサンスの基盤となったプラトン哲学だけでなく、ヴェネチアやジェノバの海洋都市国家、特にヴェネチアとの関係は深く、東西交流の結節点であっ た。いつか行ってみたいと考えている頃読んだ本。塩野氏の作品は、どこまでが史実で、どこまでがイメージ、創造であるかわからないが東ローマ帝国・ビザン ティン帝国の終焉となった1453年のコンスタンチノープルの陥落について、14世紀終盤からの動きと東ローマ帝国の最後の皇帝コンスタンチヌス11世と オスマントルコのメフメト2世の両サイドから、歴史的事実を踏まえてあらゆる角度から描いて見せてくれる。われわれになじみのない西アジアからバルカン半 島の地理、歴史を具体的にイメージできるように表現してくれている。中世にはオスマントルコやビザンチン帝国など当時の最先端の技術、知識をもつ文明が あったことを教えてくれる。

「中世シチリア王国」
高山 博 著             講談社現代新書
1470 講談社 1999年

イタリアでは、ルネサンス期だけでなく古代は もちろん中世の美術や建築物が併存しており、どういうものか知りたくなる。シチリアには、自然や食品が気になっていたが資料は少ない。映画やマフィア情報 はあるが。結局はツアーで行ったので本書で知りえたところはほとんどは行けなかったが、シチリアを知るには大変参考になった。古代や中世におけるシチリア の特性、地中海におけるシチリアの地理的重要性、なぜ、西欧の12世紀ルネサンスをもたらしたか、なぜ、イタリアの南端にノルマン人の王国ができたのか、 などを理解させてくれる。科学や哲学など学問的知識だけでなく、官僚制度などの制度などが現代の西欧につながる知恵の基点になっていたことが納得できる。 イスラム、ギリシャ・ヘレニズム、ラテンの3つの文化・民族の交歓の中で生み出された文化が現代にまで残っているのはすばらしい。本書は、古代からシチリ ア王国の栄光と衰退の12世紀までを教えてくれる。シチリアのモザイクの紹介もよく理解でき、シチリア行きを決めてくれた。

「十二世紀ルネサンス」
伊東 俊太郎 著           講談社学術文庫 1780 講談社 2006年

    「中世シチリア王国」(高山博 著  講談社現代新書1992年)を読み、シチリアが基点の一つとなって12世紀西欧の質的変化をもたら
していたことを知り、改めて西欧中世のルネサンスについ て知りたくて読んだ。本書は、1993年の岩波セミナーブックス「12世紀ルネ
サンスー西欧世界へのアラビア文明の
影響」を文庫版にした もの。セミナーの7講をそのまま7つの章立てし、12世紀ルネサンスを分
析している。ハスキンスによる12世紀ルネサンスの指摘は定着しているが基本は西 欧世界内部の変革としてとらえられている。著者
は科学史の研究者として、科学や哲学などの智恵がイスラム文明、アラビアの進んだ知識を取り入れることがで きた文化の転移による
と分析している。12世紀ツネサンスとはどのようなものか、それをもたらしたのはどのようなルートや担い手だったのかを考察して、ア ラ
ビアの優れた智恵が大きな影響を与えたことを論述している。スペイン、北イタリアと並び、シチリアからの転移を考察し
1章を設けてい
る。シ チリアについて科学の伝達がどのようになっていたかを科学史研究の成果を述べている。

「大聖堂」
ケン・フォレット 著      矢野浩三郎 訳  SB文庫2005年 (1989年)

     著者はサスペンス小説やSF小説の 作家として売り出したが、大聖堂に魅せられ10年間をかけてこの小説を書き上げその間、中世社
会や各地の大聖堂を研究した。本書では、
1123年から1174年の間のひとつの大聖堂建築を軸として教会、封建領主・国王、と被支
配階級の庶民の 生活を生き生きと描写しながら物語にひきこんでいく歴史大河小説である。時代からいえば、イギリス中世のノルマ
ン征服時代を描いている。塩野七生
氏の作品と同じよう に、歴史を年代ごとに箇条書きするのでなく、修道士や商人、職人、農民、騎
士、女性の立場などを生き生きと描いてくれ、また、中世社会の経済や技術、生活 はこうであったのではないかと教えてくれる。特に、
封建領主の経営・統治の仕方や教会建築、大聖堂建築の構造や構成、建築技法などをストーリーの中に無理 なくはめ込んで教えて
くれる。学術的な著作にまけない中世研究の成果と思える。もちろん、時代小説としても楽しめる。

     「人類の美術 ローマ美術」
ビアンキ・バンディネルリ 著
    吉村 忠典 訳 新潮社 1974年

ローマ美術という書名だけで購入してしまった が、対象とする美術の範囲は、古代・ローマ帝政期の2世紀まで、しかもローマ市内と地
域を限定した論述であった。ギリシャ、ローマ美術と大きなくくりで語 られることが多いローマ美術をイメージすると本書の内容は全く違う。ローマ美術という定義はなかなか難しいらしいが、著者は、政治的・経済的影響が強く生 成発展した美術としての特性にあると述べている。そのため、対象を限定されているようだ。もちろん、ギリシャの遺産を引き継ぎ、それを西欧世界に伝播させ たという点と、一方で、ヘレニズムと一線を画し、中世美術への移行を準備した美術という役割・意味を持つとも述べている。取り上げられている美術は、古代 遺跡、彫刻、工芸、つまりローマ帝政時代の建築遺構やそれに伴う、彫像、壁画が多い。ローマ中心部の遺跡を鑑賞するにはよい解説本にもなっているが、古代 やとローマ帝国は不勉強でなかなか読みこなせなかった。ただ、コロッセオ、マルクス・アウレリウスの記念柱、ドムス・アウレアなどローマの観光名所の意味 を知るには深い。絵画については、建築に付随したフレスコについて詳述されており、マッシモ宮でみたリヴィア家の別荘の壁画など広く取り上げられている。

「人類の美 術 キリスト教美術の誕生」 
アンドレ・グラバール 著            辻 佐和子 訳  新潮社  1967年

キリスト教美術といわれるものは、キリスト教 の誕生から300年以上も後で登場している。本書は、コンスタンチヌス大帝の時代前後か
ら、キリスト
教 美術が発展したテオ ドシウス1世の登場以前までの3〜4世紀の200年間だけを扱っている。コンスタンチヌス大帝のキリ
スト教公認後も大帝が
推 進した大建築以外に は美術の上では大きな変化は全くおきてはいない。この初期の美術の制作年代を特定す
る根拠のあるものは殆んどない。
キリスト教美術として 発見されているものは、3世紀のバシリカ以前の礼拝堂遺跡、カタコンベ装飾、石
棺彫刻などに限られている。それらの図像や建築は、異教のユダヤ教やミトラ 教のものを模したもので、独自に現されたものではなく、し
かも、異教と混在したカタコンベに現れている。また、キリスト教美術を促進したのは一般の信者か らで、聖職者からではなかったと考え
られている。一方、広汎な版図をもっていたローマ帝国の各地に似た様式で表現されていることから、統一的な活動もあっ たことも示唆さ
れている。また当時から統一した様式にも地方の独自色もみられ、以降の地中海東方、ギリシャ、ラテンという後の時代の萌芽もみられ
ている。
葬礼装飾は、地上の美術を模倣したものといわ れるが、地上には、現存している遺跡は全くなく、わずかに模写された文書があ
るだけである。キリスト教公認以前の建造物は完全に破壊されており3世紀に地 上にどのようなキリスト教美術があったのかは、本書で
取り上げられている研究成果以外にはわかっていない。
コンスタンチヌス大帝以降の皇帝は、キリスト 教 には不熱心で、ローマを志向するため美術的な広がりはなく、変化はテオドシウ ス1世
の登場以降にならないと見えてこない。ローマのサンタ・コンスタンツァなども本書で取り上げられ、意味が理解できる。

    「人類の美術 ユスティニアヌス黄金 時代」 
    アンドレ・グラバール 著            辻 佐和子 訳  新潮社  1969年

人類の美術の表紙ユスティニアヌスT世、U世が東ロー マ帝国皇帝であったのは6世紀だが、本書で扱っているのは5,6世紀を中心に4世紀から7世紀初めまでのローマ帝国領のキリスト教美術である。この時期の キリスト教美術は、アレキサンドリアや小アジアの周辺エリアが多く、また、各地の自治力が強く、地域ごとの特性が大きい。著者は現存するものが少ないた め、断定しにくいと控えめであるが、集中式や円形の建築物、モザイク、写本などからこの時代の特徴を論述。ビザンチン美術、神秘主義が当時のキリスト教に とりこまれている点を強調している。この皇帝の統治時代に一時的に東西ローマ帝国が再統一され、ギリシャ・ローマ美術の復興という意識も見られた、とす る。サンタ・サビーナ聖堂、ラヴェンナのサンタ・ポリナーレ・イン・クラッセ教会、サンタ・ポリナーレ・ヌォーヴォ教会、ガラ・プラチディア霊廟、サン・ ヴィターレ教会、スポレートのサン・ヴァトール教会、コンスタンチノープルのハギヤ・ソフィアなど行ったことのある建築やモザイク美術を紹介、論述してく れている。



「イタリアの中世都市」 世界史リブレット106 
亀長 洋子 著                     山川出版社  2011

正当な歴史学の中世都市の研究成果を解説してくれるもので、イタリアの都市や美術を紹介してくれるものでは全くない。従って、ルネサンスという区分はなく10世紀から16世紀頃の事象を対象にしている。イタリアの中世の、特に中北部の都市の成り立ちや都市民の生活の背景、基盤となる諸制度やシステムについてその特徴を教えてくれる。まず、イタリアの都市の特徴であるコムーネの成立パターン、ポデスタやシニョーリアなどの様々な統治機構、都市の運営における財政や税制、裁判権などのイタリア中世の社会基盤を分り易い語り口で紹介。また、身分制における貴族の成りちが、血統ではないコムーネごとに異なる展開をみせたこと、イタリア商人の優れた実際力など、文化論的でなく都市民の社会を示してくれる。具体的には、フィレンツェ、ヴェネチア、ジェノバなど基礎資料が豊富な都市について、その構造を紹介してくれる。
また、巻末に参考文献が紹介されていて、日本人研究者によるイタリア中世に関する論文、著作が多く載っている。但し、ここにも美術史関連はない。本世界史のシリーズはボリュームこそないが、1つのテーマについて専門家がコンパクトにポイントをしぼり解説してくれるものだが、残念ながら美術史は含まれていない。
「西欧の芸術1ロマネスク (上・下巻)  SD115
 
アンリ・フォション 著  神澤栄三、加藤邦夫、長谷川太郎、高田勇 訳    鹿島出版会 1989年(第三版) (1938年)  

1938 年出版のロマネスクとゴシック芸術のうち、前段の序言、序論、第一部東方と西欧、ロマネスク芸術の全訳。後段はゴシックとして別冊になっている。   下 巻末に、索引と術後解説、「サンチャゴ巡礼案内記の巡礼路と主要巡礼地」の地図がまとめられている。著者は当初、近代美術を研究していたが、1925年エ ミール・マールの後任としてパリ大学に移った時から中世研究に入り博識を背景に研究をつづけ、本書はその総合的著作といわれる。芸術作品は作品以外の要素 の影響が大であるとの思想をベースとして19世紀の中心的理念を継承している。気候風土、技術や素材など前提となる重要性を強調した発想をしている。

本 書は、いかに西欧において建築様式が伝播、変容していったかを詳述している。その過程で各地方での先行技術、特色、素材によりロマネスクという基本要素に ありながら多様なバリエーションが生まれていった経緯を分析している。ロマネスク建築とは、と一言で説明してくるのかと期待して読み始めたが、著者の博識 すぎる情報ゆえに、読んでもよくわからなかった。難解ではないが、文章の1センテンスが非常に長く、間に、博識な建築名が挿入されるため、何が言いたいの か非常にわかりにくい。第3章、建築装飾の章で、建築を装飾する彫刻、絵画、を論述。ロマネスク建築の現在の姿とは違い、かつては色彩が豊かであったこ と、カタコンベの装飾から始まる絵画、宗教美術が、聖像論争により絵画修道士の西欧各地への拡散をもたらし、宗教絵画がさらに広まったこと、その中で写本 の進化が焼絵ガラスや金銀細工、壁画の発達に大きな影響をもたらしたこと、東方からもたらされたビザンチン美術のモザイク画と並行して宗教絵画が発達した こと、などをまとめている。


「西欧の芸術2 ゴシック (上・下巻) SD117 
  アンリ・フォション 著  神澤栄三、加藤邦夫、長谷川太郎、高田勇 訳        鹿島出版会 1994年(第四版) (1976年)

 1938 年出版のロマネスクとゴシック芸術のうち、後半の第二部ゴシック芸術、第三部中世末期、及び、結論、の全訳。対象期間は12世紀から中世末期ルネサンスま でで、初期ゴシック、古典時代、末期とロマネスクからの移行、対抗するなかで各地域特性を反映したゴシック芸術を分析・論じている。12世紀の西欧、特 に、フランスのゴシック建築、大聖堂、修道院へ幅広い知見から建築を軸にした発展、変容過程を詳述。著者の大聖堂、教会、修道院についての博識に驚かされ る。ゴシック建築が芸術全体を統率していた時代から、装飾、絵画がその影響下から離れるjことで、ステンドグラス、フレスコ絵画、写本の発展を論じ、ファ ンエイクを通じて、近代絵画への創造につながっていく関係を分析。フランス各地の大聖堂、教会などの事例を豊富に引き考証するが、素人にはわかりにくい。
建築、教会建築専門用語が多用されることばかりでなく、文章のワンセンテンスが非常に長く、言わんとするところが理解しにくいところも多い。各項ごとに原注がありそこでも詳述されている。
巻末には、建築の術語解説、13世紀のゴシック教会の所在地マップ、豊富な参考文献日本語ではない部分多く、日本語訳があるのか不明)、もある。
本文に即して、モノクロ写真図版がまとめられているが、本文との見比べが分かりにくい。

「イタリア・ルネサンスにおける中世」というめずらしくイタリアの中世についての章がまとめられている。但し、イタリアルネサンスは中世ゴシックのままという著者のフランス中心主義的な視点が強く出ている。


「ロマネスク美術革命」新潮選書    金沢 百枝 著        新潮社   2015年 

ロマネスク美術や建築はゴシックへの下地としてとらえられているが、各地のバリエーションが豊に存在するため一言で定義するのが難しい。
著者はロマネスクを研究する学者。アンリ・フォションやエミール・マールらの先人の研究はあまりにキリスト教の教義や図像学を軸として分
析するが一面的すぎるとみて、改めてロマネスク美術をとらえようとしている。 

ロマネスクは文字通り、ローマに似たという程度の用語であり、10世紀末からの社会の大変化を契機として独自の表現
を創造したものととらえている。柱頭彫刻の変遷を例として、様々なデザインが生み出され、また安定した定型化への過
程がロマネスク美術の特徴としている。
また、海獣「ケートス」の変化からドラゴンが誕生したのではという解釈も面白い。安易に中国の竜や中東からの影響と
する学者も多いがヨーロッパの中からの変化の可能性を論述している。また。ゴシックへの過渡期としてだけでなく、
独自の創造的表現を各地ごとに展開したとしてロマネスク美術の多様性を鑑賞すべきと説く。確かに、ロマネスクの美術
は初期キリスト教美術に似て、稚拙ながらのびやかな表現がありしかも地域ごとでの違い、多様さも魅力である。

フォションらの視点への反証をいくつかの視点で論述しているが、聖堂の成り立ちを思えば、キリスト教の布教段階で
ともとの民間信仰を取り込みつつ拡張してきたわけで、そうした視点からでも説明できるのではと疑問を感じながら読み
終えた。

「中世の巡礼者たち」    レーモン・ウルセル 著   田辺 保 訳     みすず書房   1987年

著者は、ロマネスク研究に没頭した民間の歴史学者と書かれている。
中世初期からの巡礼という行為に着目し、10世紀前後の中世における巡礼の意味を文化・社会・建築との関係を散文的に論述している。

背景としては、君主制が成立し、農村の質的・社会的安定があり、また聖遺物信仰の高まりが拍車をかけたとする。

エルサレム、ローマ、コンポステーラの3大聖地へのフランスからの巡礼を述べたもの。しかしながら、12世紀に書かれたとされる「サンチャゴ巡礼案内」
の内容を軸にフランスのトゥール、ヴェズレー、ル・ピュイ、サン・ジルを起点とする4つのルートとスペイン国内のフランス人の道と呼ばれるメーン巡礼路
について、巡礼路沿いの聖遺物をまつる教会、修道院やいくつかの救護所の開設の経緯や道そのものを論じている。

巡礼は、十字軍との関係も深いはずだが、十字軍や一番知りたかったローマ、エルサレムへの巡礼路については全く触れていないのが残念。

巡礼路沿いに数多く存在した修道院、礼拝堂を地名と教会名をあげているが、詳しい紹介はない。
巡礼が増えたことが、教会建築において周歩廊、放射状礼拝堂などの構造をもつ大規模建築を生み出させたと分析している。コンクのサント・フォア
修道院付属教会、トゥールーズのサン・セルナン修道会参事会教会、サンティアゴ・デ・コンポステーラ司教座聖堂を詳述。また、クリニュー派について
の論述も多い。

フランス国内の多くの地名や修道院名などがあげられているが、説明は少なく、フランスの地名に疎いものにとっては、所在地すらよくわからないのも残
念。文章も散文のような語り口で整理されておらず、理解しにくいところが多々ある。

「中世彫刻の世界」ヨーロッパ美術史講義  岩波セミナーブックスS8  越 宏一 著   岩波書店 2009年

彫刻について鑑賞眼があるわけではないので彫刻の歴史を知りたくなった。特に、ローマ帝政期にあれほど盛んに作られた彫刻が、10、11世紀に復活
するまで作られなくなったのは偶像崇拝の禁止のせいだけの理由なのか。絵画やイコンはこの間もあり、なぜ彫刻はだめだったのかなどの疑問にも答えてく
れる。また、ロマネスク初期に彫刻が復活してくるが、それがどのように生まれてきたのかを時間軸に従って解説してくれる。
古代末期にはオリエント、ヘレニズム文化の影響により抽象化されたプリミティブな彫刻が登場はしている。これらはイタリアに多く残り、6〜8世紀ランゴバ
ルド様式と呼ばれる。またカロリング朝ルネサンス期には、各地に古代末期の彫刻手法の断片が再び現れる。これらは、浅い浮彫やアーケード型と呼ば
れる枠に縛られた様式であった。外壁の装飾として彫刻が現れてくるのはロマネスク建築が形成されてからである。
中世彫刻の特徴は、建築に付随したものとしての位置づけにあったこと。扉口、柱、タンパンなど外構の建築の枠内でのみ登場してきた。アンリ・フォション
がアーケード型と呼んだ、壁龕に囲まれた彫刻として高浮彫という形で復活してくる。同時に柱頭の装飾としても出現してくる。さらにゴシック初期の段階に
なって丸彫りの独立した彫刻が出現。14世紀から16世紀初頭の後期ゴシックに至り、やっと彫刻が建築から独立し、同時に石から木彫へ、外部から教
会堂内部の祭壇などへと転換していく。クラウス・スリューテルを中世彫刻最大の貢献者としている。
残念ながら、こうした中世彫刻に取り上げられるのは、
フランスの大聖堂が中心になっている。


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