Uルネサンスバナー

「ルネッサンスのイタリア画家」
バーナード・ベレンソン著   
   矢代幸雄監修、山田智三郎、摩寿意善 郎、吉川逸治、新規矩男 訳 新潮社 1961年

ベレンソンの本表紙ま だ、美術史や芸術分野がひと つの学問分野として定まっていない19世紀末から、過去の作品を網 羅し鋭く厳しい鑑賞眼で広く作品をリストアップするところから始まり、今日に続く学 問的美術批評、美術史の分野の基礎を築いた巨人である。イ タリア美術のバイブルといわれる西洋美術史の名著。隠遁者のように公職をことわり続け、表にも出ず研究に費やした知識人ベレンソンの90歳を記念して企画 された。過去の著作、研究論文の中から、1894年ルネサンスのヴェネチア画家、1896年フィレンツェ画家、1897年中部イタリア画家、1907年北 部イタリア画家の4部作に、図版を加えて1冊にまとめたもの。人間像、風景表現の史的、様式分析など今では美術研究の当たり前のこととなった美術研究手法 を簡明に論じた4冊であった。作家の技法や性格などでなく、作品を芸術作品として見る視点をベレンソンの絵画の見方として著した。触覚値、動態、空間構 図、を人物表現の基本とし、生命感を高める、など心理的意味を含む用語、装飾と図解など新たな定義や新造語により美術の見方をも提言した。フィレンツェ派 の形体と動態の追求、ヴェネチア派の光と色、中部イタリアのシエナ派、ウンブリア派、ペルージャ派と独自の画家、による空間構図と図解、北部イタリアのパ ドヴァ派、ヴェローナ派、フェラーラ派などのフランドルとの近似と他派の影響度など、イタリア絵画を見て疑問に思うそれぞれの地域での変遷と盛衰を厳しく 分析されている。図版と見比べながら、論点を確認していくことができる。巻末の作品リストは、当時としては、全く新しいベレンソンの研究成果のリストでも ありイタリア美術史の基本の作品。本書は、図版はイギリスで印刷しそれを日本版に貼り付けるという新しい製本でもあった。 単なる美術の研究書ではなく、独自の視点での絵画の見方を提示したもの。

「イタリア絵画史」
 ロベルト・ロンギ 著      和田 忠彦、丹生谷 貴志、柱本 元彦 訳 筑摩書房 1997年

ロンギの本イ タリア人のイタリア美術史家はヴァザーリ以外にはロンギしか知らなかった。1914年、著者 24歳 の時の講義録をまとめたもの。絵画の見方的基本から、様式、形体、色彩など理論的な部分とローマのモザイクからカラヴァッジョまでのイタリ ア絵画の変遷を 有名な作品のみを通して理解させてくれる。著名な作品ばかりなのでイタリアで見たものも多く再確認させてくれる。平板な美術作品の解説というより、ロンギ の断定的なものいいといい表現はひとつの文 学のようで、正しいかどうかは別にして読みやすく解りやすい。学究的な研究者というより自信家で行動的なロンギの特徴がでている感じがする。後段にチェ ザーレ・ガルポリによる第2版への序文があり、ロンギの美術論や人となりを紹介している。

「美のチチェローネ」
ブルクハルト 著             高木 昌史 編訳  青土社 2005年

ブ ルクハルト「イタリア美術作 品の享受のための手引書」の抜粋訳。1855年に書かれた原著作は、何度も改定を重ねられている。もともとのチチェローネは、第一部建築編だけが翻訳され ていて、第2部彫刻編、第3部絵画編は訳されていない。本書は、その絵画編のうちの約3分の一だけを抜粋翻訳し、日本語版のために編集されているもの。ブ ルクハルトの代表的な名著は「イタリア・ルネサンスの文化」であるが、そこでは、ルネサンスという概念を初めて規定した文化論であり、美術論としてはほと んど 触れられていない。本書は、その「イタリア・ルネサンスの文化」が出版される以前に発表された、専門家向けでなく、素人にむけて絵画の見方を含めイタリア 絵画 を紹介するガイドである。古代からロマネスク、ゴシック、ルネサンス期からさらに、マニエリスム、バロックまでの絵画と美術家を解説してくれている。イタ リア美術の中で、観るべき作品のリストともなっており、ポイントをおさえた様式比較や美術史の基礎もわかりやすく紹介してくれている。イタリアでの絵画鑑 賞に非常に参考になった。イタリア絵画鑑賞の手引きではあるが、著者の優れた美術論でもあり、単なる作品紹介でないので、読みやすいが内容的には読み応え もある。巻末には、原本のチチェローネの絵画編の全体目次、参考文献リスト、ブルクハルトの個人年表、イタリア美術の主要作品の制作年表とイタリア絵画を 見るための主要な美術館の地図がおさめられている。


「イタリア・ルネサンスの文化」上 巻、下巻
ブルクハルト 著            柴田 治三郎 訳   中公文庫(上下) 1974年 (原本1860年)

ブ ルクハルトは1840年代から著作を出していた19世紀を代表する歴史家。チチェローネをはじめとする著作は、当時の学者から主観的すぎると批評されてい たようだが、独自の史観は変わってはいないようだ。1860年イタリアル・ネサンスの文化・一試論として公表された。14世紀から16世紀のイタリア人の 生活を巡って、前後の時代と明確に区切った中で、社会全体を抽出したものであるが、絵画、彫刻などには触れていないのが残念である。政治状況、個人の意 識、古代の復活、人間と世界の発見、社交と祝祭、風俗と宗教という6つの章でルネサンス期という時期の社会を捉えようとした。学術的にもルネサンス文化を 最初に統合的に記述した作品であり、ルネサンスという概念を大きく規定した古典的名著。哲学や文学の幅広い知識、造詣があって初めてまとめることのできる 内容であり優れた研究書である。ルネサンス美術を生み 出したその社会というものを理解すると美術作品がどのようにうまれたかをイメージできる。本書以外の著作は、私のような素人には難解な学術論文が多く、むしろ、ブルク ハルトの著作を引用したり解説してくれる日本の学者のものを読むとブルクハルトの関心事や氏が見い出した事のすごさがわかる。


「イタリアの美術」SD 選書27
アンソニー・ブラント著      中森 義宗 訳  鹿島出版会 1968年

      A・ブラントの1940年出版「Artistic theory in Italy 1450-1600」の訳。日本語タイトルでは、美術作 品研究のようだが、
内容は盛期ルネッサンスから
マニュエリズム 絵画が登場する時代に、美術家が何を目指していたのか、美術家の意識はど
こにあるのかを代表的な美術家の著作、記述を分析した内容になっている。
アルベルティからスタートしているが、アルベルティ以前に重要な理論はあるものの全体としてまとめられたのがアルベル
ティである、という判断による。以降、ダビンチ、コロンナ、サヴォナローラ、ミケランジェロ、ヴァザーリらの著作、記
述に分析を加えている。後段では、マニュエリズムについても同様に論じており、反宗教改革、トレント公会議の影響、最
後の審判に対する批評などにも著述をもとに示している。



「古典美術」
ヴェルフリン 著              守屋 謙二 訳 美術出版社 
1969年(第4版)   (初版1962年)

1899年に出版された「古典美術―イタリア ルネサンス序説」第一版の完訳。古典的名著のひとつ。本書で言う古典とはギリシャ彫刻ではなく
16世紀
のイタリアルネサンス絵画をさす。ダビンチ、 ミケランジェロ、ラファエロ、バルトロメオ、デルサルトなどの作品をもとに、古典的なるものを
究明したもの。
後に出版した「美術史の基 礎概念―近世美術における様式発展の問題」としてまとめられた比較考察による様式分析の考え方
による美学と美術史を
統合して分析したもの。第2部に は、美術史の基礎概念でまとめられた考え方の核となる考え方によるまとめがある。本
書のほうがわかりやすい。
主要なルネサンスの作品を通して、ルネサンス 絵画のテーマ、構成要素、意味するところなど、ルネサンス絵画に関
心を持ち始めた時、初めて読ん
で、
ルネサンス絵画の見方としてこう見るのか、こ んなに深い情報があるのかと感激した。
本書の対象とする範囲は、16世紀のフィレン ツェ中心の美術家を核としており、ヴェネチア派や他のイタリア各地の状況は考慮されていない。
それでも、
作品を通じて幅広く関連する事柄 が網羅されて非常によくわかる。内容自体は、美術史や美学の知識のある人間を前提としているの
で、素人には難し
いところがあるが、イタリアルネサンス美術を鑑賞するには 是非読んでおきたい。

「イタリア・ルネサンス美術史」上 巻・下巻 (美術名著選書1.2)
 マクス・ドヴォルシャック 著                     中村 茂夫 訳 岩崎美術社 1966年

美術史を世界史的・文化的・精神史的視点でと らえたウィーン学派と呼ばれる研究者の論客、ドヴォルシャックのイタリア芸術復興期美術史(1927年)の訳。ウィーン大学の 最後の講義録をもとに他の著作を合わせもの。ジョットからミケランジェロまでのイタリア美術史の講義内容という。上巻には14世紀、15世紀の副題がつい ており、ジョットの登場からマザッチョ、ブルネレスキ、ドナテッロとそれぞれの分野の巨人とその時代のフィレンツェの工房の活動、ダビンチまでを扱う。下 巻は16世紀の副題のもとに、盛期ルネサンスからマニエリズム、バロック美術の成立期を扱い、ミケランジェロ、ラファエロ、コレッジョ、ティチアーノから ティントレット、ベルリーニを語る。それぞれの巻に図版がついており、下巻の巻末には、1260年〜1622年までのルネサンス美術年表と主要美術家ごと の索引も収録されている。内容も講義形式のため、時間的流れと美術家ごとにまとめられ、、ルネサンス美術の概要をわかりやすくまとめてくれている。


「ルネサンス」
ウォルター・ペイター 著                 別宮 貞徳 訳   富山房百科文庫9    1977年

ギ リシャ芸術を研究したヴィンケルマンの刺激を受け、ルネサンス研究に向かった唯美主義者といわれるペイターの名著。ミケランジェロ、ボッティチェリ、ダ・ ビンチ、ミランドラ、などの1870年代に書かれた9つの論文を1冊にまとめたもの。異教美術とキリスト教美術は連続している、とかルネサンスは中世から の絶えざる変革の継承である、などの鋭い指摘のある著者の9つの各論は読み応えあり。それぞれの文章は専門的で、ルネサンス期の社会経済的背景や、宗教、 政治状況といった一般的な知識なくしては、何を言っているのかわからない。それでなくてもペーターの文章は、ある意味文学であるという。本書の冒頭に、訳者による解題があり、著者 ウォルター・ペイターや、本書についての解説があり、本書の位置づけを解りやすく解説してくれる。


「ルネッサンスの光と闇 −芸術と 精神風土」
高階 秀爾 著                      中公文庫  1987年

      1500年前後のイタリアの思 想、精神的風土と芸術との関係を明らかにしようとする視点でまとめている。作品とその背後にある時代の空気、社会、
宗教、哲学など広範な知識から整理している。個々の作品の紹介ばかりでなく、思想との関係を示すなど多くのイタリアルネッサンス作品について

触れてくれており、美術案内としても有用である。モノクロの小さな図版であるが多くの美術作品が挿入され、文章の理解を助けてくれる。

ルネッサンスという時代と美術作品の関係を知りたい時には非常に参考になり読み応えがある。
1966〜68年に三 彩という雑誌に連載されたものに、
加筆訂正し1冊にまとめたものという。あとがきで著者自身も述べているが、ルネサンスについては西欧では研究成果が多大にあり、それらを踏まえて
いる。参考文献も原文のままのものが多いが沢山掲載されている。著者の研究の広さも伺われる。一方、パノフスキー、ゴンブリッジ、ウィントなどの成
果、特に、イコノロジーという当時には新しい研究手法に出会ったことからなのか、イコノロジーの研究成果をそのまま述べているように思える点も多々
ある。それだけ、ルネサンス美術の理解にはイコノロジーが有効であるのだろう。



「薔薇のイコノロジー」
若桑 みどり 著            青土社 1984年

      若桑みどり氏の本表紙ルネ サンス絵画を見る時、著者の 幅広い研究成果や深い知識は、非常に多くの示唆を与えてくれる。もともとカラバッジョの
研究者で、広くルネサンスや
バ ロック、さらに、マニエリスムなどの分野の研究、著作が多数あり、また、フェニミズム問題な
どの識者として幅広く活動されていた。本書は、薔薇だけでなく、花というキーワードで繋がりをもたせている。時代区分、地域、
特定の美術家、作品それぞれを取り上げるのではなく、文化的視点というか、横断的な視点で、イメージというものを探る内容
となっている。洋の東西、絵画や彫刻、工芸品などの区分でなく、イメージの普遍性というものを考察している。その根本には、
16世紀絵画に頻繁に登場する花や象徴としての薔薇の意味を探ることにあるらしい。各論では、ルネサンス絵画の見方、意
味するところについても触れられており読み応えがある。パルミジャーノをもとに錬金術で重要な意味を持つ薔薇を、ボッティチ
ェリの作品と古代のイメージ、ダビンチの絵画における植物の持つ象徴的意味など、14のテーマの論文となっている。

日本にはない、西洋美術独特の寓意、擬人、象徴といったシンボルやイメージが多用される美術を理解するには、表面的な知
識では難しいものだと感じさせてくれ、今後の研究成果や知識が必要と感じさせてくれる良書である。


「ルネサンスの歴史」  上巻・ 下巻
 モンタネッリ 
/ ジュルヴァーゾ 著          藤 沢 道郎 訳 中央公論社 1996年

      上巻にも下巻にも序があり、上巻 は黄金の世紀のイタリア、下巻には、反宗教改革のイタリアという副題がついている。上巻では、13世紀のフリー
ドリッヒ2世から新大陸発見時代まで、下巻は、15世紀のルドヴィーコ・スフォルツァからジュルダーノ・ブルーノの死の17世紀までを扱っている。
もともとは、モンタネッリのイタリア史シリーズの5巻、6巻目を上下巻としてまとめたものという。(その後、イタリア史シリーズは14冊になった?)著
者は、学者ではなくミラノの新聞社の主筆というジャーナリスト。ジュルヴァーゾも新聞の編集者らしい。他の本の参考文献で本書を知ったが、その
紹介にも優れたイタリアのジャーナリストとして、細かい記述にこだわる学者の著作でなくイタリア史を客観的態度で記述する良書との紹介があった。
著者自身が、中小国に分裂していたイタリアを論述するには、列伝的に扱わなければ、全体を見渡せないと語っているとおり、小項目ごとに人物や事
象に焦点を当てて論述しており、解りやすく読みやすい。他の本ではあまり取り上げられないフェラーラや宗教改革期の諸外国の動向などもイタリア
史の中の必然として冷静にとりあげている。特に、ローマ・カトリックに遠慮がある学者の論述に比べ、客観的な宗教改革、反宗教改革への記述には、
十分納得できるものがある。


「異教的ルネサンス」
ヴァールブルク 著                   進藤 英樹 訳  ちくま学芸文庫 2004年

ヴァール ブルクは生涯にわたって、ルネサンスさらに西欧における異教的古代とは何であったかを追及し続けた。関心のひとつであった占星術的伝統問題をあつかった代 表的な3つの文章(1912年、イタリア美術とフェラーラのスキファノイア宮における国際的占星術。1920年、ルター時代の言葉と図像にみる異教的古代 的予言。1926年、東方化する占星術)を一つにまとめたもの。学術論文だけに原注も多く、また、本書用に補遺が追加され、原本以降の研究により明らかに なったこと、図版、解説的図表などで本文と同程度のボリュウムで盛り込まれている。内容は素人には非常に難解。
ルネサンスが教会や封建制度か らの解放の時代であり個人というものが認識されはじめた、という認識にあって、そこではキリスト教的位置づけの中で異教の信仰が矛盾なく同居していた状況 を解明すべく研究を続けた。スキファノイア宮の壁画の研究は、イコノロジーという手法を明らかにしたものとして有名。ルター時代の中では、デューラーのメ ランコリアに対する占星術の解釈の分析で知られる。東方化する占星術は、その2つの論文について要約した講演の内容である。当時だけでなく現在でも占星術 や錬金術が学問の対象として認められにくい環境にあって、図像解釈学という新たな研究手法による科学的態度とすばらしい成果を挙げてきた論文のひとつであ る。イコノロジーという研究視座については、反対する学者も多いときく。この手法が通用する美術の範囲がせまい、また、分析者の能力に負うところが科学的 でないということらしい。

「ルネサンス画人伝」 
「続ルネサンス画人伝」

「ルネサンス彫刻家建築家列伝」
ヴァザーリ 著        画人伝       
平川、小谷、田中 訳  白水社 1982年
                 続画人伝      
平川、仙北谷、小谷 訳 白水社 1995年
                                         彫刻家・伝
     森田義之 監訳 上田、石鍋、日 高、小佐野、篠塚、上村、佐藤、越川 訳 白水社 1989年

      バザーリの画人伝表紙ヴァザーリ(15111574)はメディチ家にも近く、ミケランジェロにも 学んでいるルネサンス期の画家、建築家。この3部は、
ヴァザーリの原題「画家・
彫 刻家、建築家列伝」からの全訳ではなく、著名な、もしくはユニークな美術家を抜き出し、
250人以上の中から“画人伝”では、チマブーエ、ジョット
ピ エロ・デラ・フランチェスコ、ミケランジェロなど15人を、“続
画人伝”では、シモーネ・マルティニ、ペルジーノ、アンドレア・デル・サルトなど41名 を、
“彫 刻家建築家“では、24人
を抜き出して翻訳しまとめたもの。それぞれに、細かい注釈と訳者による全体のまとめが収録されている。これは参考
になる。原著作は13世紀から16世紀半ばまでの美術家を対象としており、歴史上初の美術史書といわれる。近現代
の内外のルネサンス学者が貴重な文献として参考資料に必ず挙げている。1550年に初版が出、その後さらに、追加
修正され第2版が1568年に出ており、この訳本は第2版によっている。ヴァザーリの生きている時代から2、300年前
の美術家から同時代の美術家までを扱い、出自や作品リストと評価、弟子、うわさ話のようなその人の性格を表したエ
ピソードを交えた読み物の要素もある。ヴァザーリはフィレンツェの中心にいたため、シエナ派やヴェネチア派、北イタリア
などフィレンツェ以外の美術家は抜けていたり取り上げ方も少なく、評価も厳しい。後半の同時代人については、現代まで名前が残らな
かった美術家名も多い。これで一部を抜き出したというのだから、当時はもっと多くの美術家がいたということになる。

近現代のルネサンス美術史研究が進むにつれ、ヴァザーリの記述内容には、間接情報が多いことや間違いが多々あるなどが解ってき
ている。訳者の注にはその時点で確認された誤りや疑問点も指摘されている。現在でも作者が特定できない中世やルネサンス期の作
品が多いことを考えれば、学問自体の体系がない時代に1人で完成させたこと、間違いがあるとはいえ、中世末期から16世紀の美術
についてこれだけの情報が残っていることの価値はすごいと思う。


 「イタリア美術の旅」
三輪 福松 著      雪華社 1964年

      イタリア美術案内は数多くあるが、本書は、 フィレンツェとローマの2都市にしぼり、しかもポイントをおさえ、 失礼ながら意外としっかりした美術案内
になっている。
フィレンツェでは、メディチ家と美術の関係を、ローマでは、古代から現代までの流れとキジ家の芸術との関係を、ファルネジーナ荘などによりしっかり
教えて くれる。期待しないで読み始めたので他の美術案内にはない紹介があり知識も増え面白かった。


「イタリア・ルネサンスの扉を開 く」 
塚本 博 著       角川学芸ブックス   2005年

      イタリア・ルネサンス期の美術、特に絵画について、難しい理論やプラトン哲学などを省き、単純に 美術に割り切って非常に
解りやすく解説してくれる入門書。イタリア・ルネサンスの作品が、現在、どこで見られるか、イタリアの主要都市で何が見ら
れるか、その作品や都市の美術史上の位置は、などの情報がわかる。入門書だからといって、必要なポイントはきちんと抑
えており、ダビンチ、ミケランジロ、ラファエロの3大巨匠は勿論、フィレンツェ、ミラノ、フェラー ラ、ベネチアらで足跡を残した美
術家とその主要作品について紹介されている。論文では全くないが、ルネサンス絵画の特徴は十分に伝わる。既に見た作
品を確かめたり、次にゆくところを決めたりするのに役立った。私にとってはブレラ美術館、聖十字架伝説、フェラーラ派なども
本書で知り、旅ガイドともなって有益だった。


「イタリア・ルネサンス美術の水 脈」 
塚本 博 著                     三元社 1994年

2 回目のヴェネチア行きの前に本書を読むことができた。おかげ様でミラノの主要な美術館やパドヴァ、ヴェネチアの美術館、教会を訪れる情報がたくさん得られ た。ルネサンス美術の書籍は、大半が、フィレンツェを中心としたトスカーナ、ローマの情報が多いが、本書は、後期ルネサンスにかけてのパドヴァやヴェネチ アの動きがわかり、ルネサンス期の全体像がより理解できる内容となっている。キリストの死という表現主題を1つの軸に、起源としてのビザンティン美術から どのようにイタリア各地へと伝播、変遷していったかという経過を通じて、ルネサンス美術がどのようにイタリアで開花していったかを理解させてくれる。この 過程で、ドナテッロの果たした役割やルネサンス期の北イタリアの意味を紹介してくれヴィヴァリーニ、スクォルチオーネ、ベルニーニ、クリヴェッリ、マン テーニャなどの美術家を教えてくれている。小さな本であるが、個人的にはシャステルのイタリア・ルネサンスと同じくらい新しい情報が得られた。


「天使たちのルネサンス」
佐々木英也 著                NHKブックス877 日本放送出版協会 2000年

西 欧では、彫刻・絵画には天使が数多く登場する。受胎告知のガブリエル以外は主題ではなく主題の周囲に登場するものが多い。天使は、霊的創造物として聖書の 天地創造から登場するそうだ。6世紀には、天使の位階・ヒエラルキーが考察され新プラトン主義との三元的意味から3つの階層があるとされた。当初は天使に は翼はなく、神の使い的立場から有翼の天使が5世紀には現れた。 本書の前段では、天使についての既存の研究成果から天使論を紹介、後段は、イタリアに 絞って、図像に表された天使像の変遷を美術家とともに紹介している。次いで、天使との関連で、受胎告知図像、聖母マリア図像についての概要紹介がある。本 書では、パノフスキーのプットの研究成果などには全く触れられておらず、本書が参考にした既存の研究成果というものの範囲とは何だろう、という疑問と物足 りなさを感じた。

「フレスコ画への招待」
大野 彩 著                  岩波アクティブ新書
83 岩波書店  2003年

ル ネサンスのフレスコ画の図版解説が少し載っていたので購入したが、解説よりも、フレスコ画とはどういう技法か、という基礎知識が詰まっていた。ブオンフレ スコとセッコの違いも安易に分ったつもりだったが、技法としては深いものがある。石灰を下地にした絵画を広くフレスコという。そのため、アルタミラを初 め、ルーマニアや広くユーラシアにある。現代にも。宮下孝晴の「フレスコ画のルネサンス」にもフレスコ画について基本を紹介しているが、現代のフレスコ作 家でもある著者だけに解りやすい。イタリア各地のフレスコ画の見方にしても、技術的視点からの解説も納得。

「フレスコ画のルネサンス」
宮下 孝晴 著                 日本放送出版協会 2001年

NHKの放送講座内容に加筆修正してまとめられた、フィレンツェを中心にしたルネサンス期 のフレスコ画に関する美術案内になっている。美術論というほど 学術論文でなく読みやすく分り易い。ジョット、マゾリーノからフラ・アンジェリコのサンマルコ、ピエロ・デッラ・フランチェスカの聖十字架物語、盛期ルネ サンスの巨匠たちのフレスコなど主要な、また見るべきフレスコ作品を載せている。大半を観たこともあり感激を新たにした。フレスコ画を学んだ著者らしく、 技術的側面や構造、修復技術、技法面からの見方などルネサンスのフレスコにまつわる情報など、フレスコ作品をみるための役立つ知識も紹介されている。


「ルネサンスとは何であったのか」
塩 野 七生 著                                       新潮文庫 2008年 (
2001年新潮社)

ルネサンス関係著作集の文庫シリーズの1冊。 長くルネサンスや古代を対象に物書きをしている著者が、ルネサンスへの関心について答えるため、
内容を問答形式をとって語っていくスタイルをとっていて、さらっと読めてしまうルネサンスの入門書ではある。基本的知識のための地図や年表、代表
的なルネサンス著名人の紹介などが付いている。14世紀から16世紀までのイタリアルネサンスを、フィレンツェ、ローマ、ベネチアの3地区を中心に
ポイントを押さえ紹介してくれる。

但し、塩野氏の著作は、学者の書く論文や研究書スタイルでもなく、小説でもなく、随筆でもなく塩野氏の著作としかいえない著者の視点で語られて
いる。
解りやすいが塩野色が強く、知識や知りたい情 報を直接求めようとすると違う印象を受ける。自身の調査、研究に基づいて考え抜いた著作なの
で、個別の知識というより、塩野流の解釈に基づいた文章なので読みやすいが、すんなり受け取れない違和感がある。一方、学者というより、また小
説家という枠でとらえきれない著者独自の視点のすごさも感じられる。歴史を編年でつづるのでも、美術作品を解説するのでもなく、社会全体を描くな
かでルネサンスを紹介する視点は独特のものであり、ルネサンスという時代の社会全体を理解するにはよいテキストになっている。


「イ タリア古寺巡礼」
和辻 哲郎 著                   岩波文庫
144-6   1991年
著者38 歳の時のドイツへの国費留学中、1927から28年にイタリア各地を巡って、教会、美術館を訪ね、その際に照夫人に書き送ったものが要になってまとめられ たもの。1950年に出されていたものを1冊にまとめられた。私信のため一部を削除したり説明を加筆されているらしい。留学前に世に出た古寺巡礼を意識し た内容、タイトルであるという。優れたイタリア美術紀行案内となっている。ニースから汽車でジェノバに入り、ローマ、ナポリ、シチリア、アッシジ、フィレ ンツェ、ボローニャ、ラベンナ、パドヴァ、ベネチアとイタリアを縦断している。この時代に多くの教会を巡っているのに驚かされる。感動を伝える文章や日本 文化との比較などさすがと思わせる。解説を書いている高階秀爾氏は、自然への視線など、著者の重要な思想となった風土につながるキーワードが読み取れると いう。

「人類の美術 イタリア・ルネッサンス14001460
ルードヴィッヒ・H・ハイデンライヒ 著                前川 誠郎 訳  1975年


ルネサン スといわれる時代の根本的変化が現れたとされる15世紀の最初の60年間についての、建築、彫刻、絵画の3分野を中心に詳細な解説をしてくれる。さら に、その動きの中心地となったフィレンツェ、ミラノ、ヴェネチアのそれぞれの動向についても解説。序章において著者のこ15世紀前半という時代につい て、美術作品の背景となった政治、経済、社会、民俗文化の状況との関連で美術史の中のルネサンスを語っている。豊富な図版があり、著 者の述べる動きや特徴の解説もそれらの図版にそっているので素人には、確認しながら読めるので理解しやすい。巻末には、その詳細な図版索引、年表も掲載さ れている。


「人類の美術 イタリア・ルネッサンス14601500
アンドレ・シャステル 著                      高階 秀爾 訳  1968年
美術史の 著作は一般的には、作家や地域別に編年的に作品を紹介してくれる。このほうが、素人的には手っ取り早く理解しやすい。
本書は、こうしたまとめ方をし ておらず、構成的な歴史というか、個々の作品・作家が集まって一つの事象、テーマがまとめられ、全体像がわかる
よう
にまとめられている。統合的な 視点、まとめ方により15世紀後半のイタリアのルネサンスといわれる時代の特徴を形作るいくつかの軸となる
動きを
らかにしてくれる。従って、主題とか種類 によって特徴と動向を示してくれるので、メダル、彫刻、工芸作品、絵画、建築などのジャンルを
超えてくくられ
てい るので、最初 は理解しずらい。ル ネサンスはまさに職人・工房から美術家、建築家、工芸家、学者が生まれてくる時代であり、
ジャンルでくくられる
一面的になりがちな美術史では おさまりきらず、ルネサンス美術をミスリードしてきたきらいもあり、かつてブルクハルトが構想
しながら未完で終わっ
“構成的歴史記述”に挑戦した とも思える。作 品ごとの詳細な分析からの積み重ねでなく、作品を例として、ルネサンスと
いう時代の特徴、動きというも
のを、政治体制、キリスト教と の関係、経 済・社会、文化との関連、背景をふくめ統合的にとられようとする著者の文
章も練られている。

本書も図版が多く取り入れられ ているので理解を助け てくれる。文章だけでは、著者の意図するところは素人にはわかりにくいところを、納得させ
てくれ
る。取り上げられている中 には、素描や寄木細工、メダルなど見落としがちな美術分野に焦点をあてるなど、絵画や彫刻だけでない美術の
横断的刺激
が一層意味をもっていた時代で あることを確認させてくれる。巻末には、その詳細な図版索引、年表も掲載されている。

「人類の美術 イタリア・ルッサンスの大工房  14601500」

アンドレ・シャステル 著                      辻 茂 訳  新潮社  1969年

本書のタ イトルの工房については、序と結論以外には殆んど工房についての動向にはふれられていない。15世紀後半がどのような美術の運
動・変
化があったのか、具体的に作品 を通じて示してくれるのだが、工房の状況、動きという視点は少ない。むしろ、個々の作品の背景として、
各地の工
房と流動性の高かった有能な美 術家との集散により、イタリア全体が工房をベースとしていたことを大工房と称しているようだ。
15世紀後半は、イタリア各地 での様々な特徴ある様式への発展が多様に開花し変化していた時期であり、初期のルネサンスからの各地での
動き
が詳細に述べられている。建築 分野では、都市計画の視点や、理想建築として描かれた建築や祝祭の背景画としての建築が遠近法を軸
に展開
し、現実の建築物ではパラッ ツォの変化と要塞都市などが生まれている。彫刻では、ドナテッロの偉大さを乗り越えられない多様な作品
が誕生して
いた。絵画では、フレスコを中 心とした壁画の最盛期で、以降、油絵などの新技術に凌駕されていく変化の時代を迎えていた。表現
様式にもピエロ
デラフランチェスカ、ペルジー ノなどの巨匠のあとダビンチ、ミケランジェロの大きな革新の時代を迎えることにる。
時期は壁画、
祭壇画、から、背景 と
しての自然・風景画への力点がおかれたことなど、 近代絵画への大きな転換点として指摘される。

「ルネサンス」 
澤井 繁男 著                          岩波ジュニア新書     2002年

イタリ ア・ルネサンス文化論を専攻する著者が、ジュニア向けにルネサンスと呼ばれる時代の事象を解りやすく解説。再生とはどういうことか、人
間という視点、宗教をどうとらえるか、自然科学の目覚め、など政治、哲学、文学などから、ルネサンスの概要を理解させてくれる。特に、ヘルメス
文書やカルダーノの思想などルネサンスの骨格となった哲学や各分野の成果とその背景など、ルネサンスの骨格を示してくれているのでジュニ
ア新書版とはいえ、良いルネサンス入門書である。

「イタリア・ルネサ ンス」
澤井 繁男 著                     講談社現代新書1557  講談社  2001年

なぜイタ リアにルネサンスがおこったか、昔の世界史の教科書や参考書をみてもよくわからない。最初のイタリア旅行のあと簡潔にわかる本はないか探していた時にあった数冊 のうちのひとつ。フィレンツェなど特定の地域について起源を追求するものではなく、14世紀から16世紀にかけてのイタリアと周辺国との関係など、政治、 経済、宗教、などとの環境要因がいかにルネサンスを興したかという視点で考察したもの。文学や教育などの文化的側面を核に、人文主義や印刷などの技術革新 などの総体からルネサンスが興ったことを述べている。人文主義や文学、技術などに、他のルネサンスを扱った入門的書物にない点で、我々素人向けに解説して くれる。

「ルネサンスと地中海
樺山 紘一 著                 
世界の歴史16        中央公論社 1996年

            今では、ルネサンスという概念は14世紀だけでなく、8世紀、12世紀のルネサンスが認識されたり、一方でそうした時代区分はないとい う学者もいた
    するが私とし
て はやはりイタリア・ルネサンスを 考えたほうがしっくりする。ブルクハルトが「イタリア・ルネッサンスの文化」で指摘した大きな変革はあった
    とみたほうが納得できる。本書の入っている世界 の歴史というシリーズの他の巻を読んでいないのでわからないが、本書で扱うルネサンスも結局のところ
    イタリアルネサンスが中心で、大航海時代までを扱って いる。目新しい情報はないが文章もわかりやすく、ルネサンスという時代について理解させてくれる。



「イ タリア・ルネサンス美術論」
関根 秀一 編 池上英洋、甲斐教行、片桐頼継、金山弘昌、喜多村明里、木名瀬紀子、関根秀一、田辺清、
松浦 弘明、宮下規久朗、谷古宇尚
         
共著           東京堂出版  2000年
 
最 新の研究成果を取り入れたイタリア・ルネサンス美術論集という帯に引かれて購入。プロトルネサンス美術からバロック美術へという副題があるが、概要を知 るものではなく、各研究者の論文集に近い。初期ルネサンス、15世紀のフィレンツェ絵画、盛期ルネサンス、マニエリスムからバロックへと4つの期間に分 け、マザッチョ、フラ・アンジェリコ、ボッティチェリ、最後の晩餐、カラバッジョ、レーニ、ベルニーニなどをテーマにした論文からなっている。14世紀か ら17世紀を扱いながら、ピンポイントのテーマの積み重ねで編集されているため、また、各著者の関心領域も違い読み通してもよくわからない。一つひとつ は、 専門家の細かい論証による指摘に終わり、全体としての美術論としては結局よくわからなかった。読んで楽しくないので、関心のあるテーマだけ章や節としての 論文を読めばいいのかも。

「ピエロ・デッラ・フランチェス カ」 
アンリ・フォション著                  原 章二 訳 白水社 1997年

  フォションは、形態に美術の意味 を考察し、20世紀の美術史という方向を確立した美術史家。多くの優れた美術論を著した。
形態は芸術内容を含み内容が形態を生み出す。また、ある一定の発展過程をたどる様式の展開が長い歴史のなかに繰り返し
あらわれるとの論旨を展開した。
1934− 35年の公開講座などから編集した講座内容を美術史家アンリフォションの没後、19
52年出版されたものの訳本。ピエロ・デッラ・フランチェスカ
に関する訳本もたくさんあるが、他の本の参考文献によく出てくるので選
んだ1冊。ピエロ・デッラ・フランチェスカの絵画は教会や美術館でも一目でわかるほど特徴が ある。
ルネサン ス期の多くの画家の中でも、その静的な不動の安定した構図の落ち着いた色調はユニーク。遠近法をきっちり押さえた作品は見
るものに静けさをもたらす。アレッツォの聖 十字架伝説を見る前に、もっと知りたくて読んだ。単なる伝記でも作品解説だけでなく、美術史
におけるピエロの位置づけや理知的な表現手法の作品を生み出した理 由など多くの作品や背景を通じて明らかにしてくれる。フォション
自身の著作ではないのに関わらず、フランチェスカ論として優れた評価を受けるのも納得できる良 書。


「ヴァザーリ」 カン ティーニ叢書5 
ラウル・コルティ 著             岡田 温司 訳 京都書院 1994年

 フィレンツェ、しかもメディチ家に近い美術 家ヴァザーリの絵画作品カタログ。美術家列伝などの著作や建築、様々な催事のプロデュース
など権威の近くで様々な活動をしたヴァザーリの評伝かと思ったら、個々の作品それぞれに解説のついた作品紹介であった。序と最後
にプロフィールと活動について触れているが中心は、作品紹介。


「イタリア絵画」
ステファノ・ズッフィ  編           宮下 規久朗 訳  日本経済新聞社  2001年

  イタリア絵画図版集表紙めずらしく図版集を購入。イタリア絵画といってもイタリア各地の多様な広がりがあり、中世以降現代 までのあらゆる
時代に存在している。
編者であるズッフィは美術史家。2001年のイタリア年の企画としてまとめられたらしい。中世から現代まで131人
の芸術家を時間的な流れの中でその代表作品?を全部で500点を収録している。一見すると、これが代表作か
と思う作品もある一方、ほとんど名前だけしか知らない画家が登場して、知っている画家が載っていなかったりする。
編者の意図は、イタリアの多様な地域それぞれの特性をもつ美術がある反面、中世以降脈々と流れているイタリ
ア絵画の特性を作品を通して示そうとしたらしい。
中世のジョットから20世紀のシローニ、グットゥゾまでと広い。キリコ、モディリアニ以外は近現代ではなじみがない
作家が多い。近現代までの流れといえやはり14世紀から16世紀までの美術のほうが魅力がある気がする。最終
ページに全ての画家の生没年の年がまとめられている。図版はきれい。


「ありがとうジョット イタリア美術への旅」
石鍋 真澄 著           吉川弘文館 1994年


著者が1989年〜1991年に行った中世からバロックについての8本の講演会の草稿からまとめられたイタリ ア美術入門的な紹介本。地域性が大きいことやフレスコ画な どイタリアの美術を鑑賞するための基本的な前提を紹介。ジョット、マザッチョ、シエナ、ローマバロックをテーマに講演スタイルでまとめられていてわかりやすい。イタリ ア美術を体系立てて紹介しているわけではない。美術史というよりイタリアの文化紹介の講演用のためか、背景などの紹介が多く、ちょっと中途 半端な印象。端折って説明しているので歴史認識や美術史についてどこ までが研究者としての著者の認識なのか、と思うところもある。モノクロだが図版は多く挿入されている。

「ルネサンス 歴史と芸術の物語」
池上 英洋 著        光文社 光文社新書588 2012

  最 近はルネサンスやイタリア美術について新刊本を見かけないのは、新しい発見や分析視点が見つけられないのだと思う。そんな中で新書ながら久しぶりの新刊 だったので購入。本書の主題は、知ったつもりのルネサンスについてちゃんと知っているか、と問うている。「ルネサンスとは何なのか、どう始まりどう終わっ たのか」を解説してくれている。美術に限定したものでなく、むしろ社会的背景や時代の動きの中でルネサンスとはどのようなものだったのかを分り易く紹介。 平易な講義口調で語られる。プロト・ルネサンスとして共和制ローマ体制への回帰の熱望と共鳴としてその社会・文化への憧れ、理想視をネオプラトニズムの視 点で認識することが契機となったこと、十字軍の行動の影響などなどをあげ簡潔に整理してくれている。新書だけに美術史の要素を意図的に割愛しまた、新しい 学問的成果が盛り込まれているわけでもなくルネサンスという時代に対する入門編という内容。小さいながら引用する美術はすべてカラーで、巻末にはルネサン ス期の美術家30人についてワンコメント紹介がある。本文中にはイタリア以外のルネサンスには触れられていないのに、巻末の紹介には数人イタリア以外の美 術家が含まれていて違和感を覚えた。 

「イタリア美術」
ミッシェル・フイエ 著          越川倫明・小林亜起子監訳 深田麻里亜、巖谷睦月、田代有甚、松田直子 訳

                      白水社 文庫クセジュ
972 2012

著 者はイタリア中世からルネサンスの文化史を専門とする教授。その「イタリア美術」2009年の全訳。新書ながら9章に区分してイタリア美術の建築・絵画・ 彫刻の広範な内容を時間軸でその時期の特徴を分り易く紹介している。各章の最初に、その時代と美術上の特徴をコンパクトにまとめている。第1章中世(11 世紀〜)から6章バロックまでは、目新しいものはないが各分野の作家を網羅的に紹介してくれ、位置づけを再確認させてくれる。7章新古典主義、8章帝政様 式・国民美術、9章現代は私の興味の及ばなかった範囲でバロック以降のイタリア美術界の動きがよくわかる。ファシズムと美術の関係はわが国同様の動きが あったことを教えてくれ、また現代につながるイタリアの工業デザインにまで言及しているのも興味深い。地名・人名さらに主要な作品名とその所在まで網羅し ているので、固有名詞にあふれふりまわされるきらいがある。一方でそれは、イタリア美術散策にはとっても参考になる情報でもある。どうせなら本書に扱って いない10世紀以前の美術についてもまとめて欲しかった。 


「北方ルネサンスの美術」 美術名著選書16 

        オットー・ベネシュ 著                    前川 誠郎、勝 国典、下村 耕史 訳   岩崎美術社 1971年  (1944

      署名からフランドルのルネサンスかと思い込んで購入したが、15、16世紀のドイツ、オーストリア、フランス中心にオ
ランダに少し触れる程度ルネサンス領域での精神史となっている。コペルニクス、ケプラーらの科学的業績が美術にもたらした
影響という視点で分析されている。ドヴォルシャックの弟子として社会背景が美術にどう影響したかという視点を継承している。
この3国ではイタリアルネサンスの影響度合いが違い、ドイツ、オーストリアでは宗教改革などにより独自のルネサンスを開花
させたとし、デューラー、グリューネヴァルド、風景画を形成したドナウ派を例示。オランダは中世からの伝統を継承する中で
イタリアの影響を受け、科学思想を反映したブリューゲルを挙げている。フランスはこの時代、美術より文学が中心で、宮廷文
化を継承しており、美術分野は16世紀後半のフォンテンブロー派の美術が生まれたとする。16世紀はルネサンスというより
マニュエリズムの傾向と中世ゴシック精神への復帰が影響しあったとする。
本文中では初めて聞くドイツ、オーストリア、フランス、オランダの画家、天文学者などの名前が多く出てくる。巻末にモノクロ図版と所蔵先一覧が
まとめられている。本版の翻訳文章は一部わかりにくいところがある。


「イタリア・ルネサンス再考」 

         池上 俊一 著   講談社学術文庫1815   講談社 2007年   (2000年「万能人とメディチ家の世紀」改題)      

             建築家として挙げられるアルベルティは、絵画論、家族論など、幅広い分野の論客としてルネサンスの人文主義者。そのアルベルティに注目しつつ、
フィ  レンツェを中心とした15世紀のルネサンス社会は「都市イデオロギー」と「家族イデオロギー」という視点で形成された、とする論考。アルベル
ティの建築家としての実績は思いつかない。ロマネスクや周辺の古代をモチーフにして既存の建築物の外観に手を加えるという修辞的成果が多い
らしい。建築家というより理論家であろう。

アルベルティの建築以外の業績―各種の著作−から14−15世紀のフィレンツェの社会を、下層民、子供、女性といった従来取り上げられることの
少ない
生活レベルを取り上げる中で、アンタル「フィレンツェ絵画の社会的背景」やホイジンガ「中世の秋」のようにルネサンスの社会を描きだしてい
る。それらから
メディチ家のパトロネージによるルネサンスが花開いた、というような表層的な見方でないルネサンスの社会を論考。

      但し、著者の文章の言い回し、くせや装飾語の多い重ねた文体が気になって内容の理解がすすまず読了するのに時間がかかってしまった。むしろ、
解説として収録されている山崎正和氏の「フィレンツェ、社交、ルネサンス」という小文に著者のいわんとする論述を簡潔にまとめてくれており、分り
易く納得させられる。


「ヴェネツィア 美の都の一千年」

        宮下 規久朗 著                 岩波新書1608  岩波書店 2016

 本書を購入したときは岩波新書が出す「ヴェネチア」本なので都市分析や歴史などをベースにしたヴェネチアの紹介本かと
  思っていたが、内容は全く違い、ヴェネチア絵画の通史といえる内容だった。絵画と共に、建築についても教えてくれる。
 イタリアの美術ほど土地と結びついた美術はない、と思っていたが本書はそれを裏付けてくれる。自然環境、気候風土、
  政治・社会体制などの地域特性と美術の関係の密接な意味が読み取れる。
 ヴェネチアの成り立ちからヴェネチア絵画の完成者といわれるティチアーノまでの成熟期、さらに、その後の衰退期における
  美術、建築をだれが担ってきたのかなど詳しい紹介があり、初めて聞く画家や建築家のことも知ることができた。
 内容もさることながらヴェネチアの迷路をまさに迷いながら絵画を訪ねて一つ一つ教会を巡ったことを思い出させてくれる。
  また、時間が足りなくて行けなかった北側エリアや島の教会、絵画の情報にヴェネチアに誘われる


「知性の眼  イタリア美術史7講

         小佐野 重利 著   中央公論美術出版        2007年        

著者はルネサンス期の美術史を専攻する学者。本書は、1つのテーマのもとで論述されたものでなく、様々なテーマのシンポ
などの際の講演内容を起こしたもの。そのためそれぞれの論考は短く口語でまとめられている。読みやすい一方、一貫性がなく
それぞれが独立した小文となっている。研究者ならではの細かい点を追求する部分の一方で全体の物足りなさを感じる。
テーマは、ルネサンス期の美術論史概略、大理石の美術史的意義、ペトラルカの文学と比較論、フィレンツェの芸術性、周辺
都市のプラートの美術、エトルリア起源の素描、修復技術と倫理の7本。詳細な注はある。

         

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