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絵画の見方と街を知るための図書最中君02

絵画の見方、街を知る図書の紹介

「シンボリック・イメージ」
EH ゴンブリッチ 著                    大原まゆみ、鈴木杜幾子、遠山公一 訳 平凡社 1991年 (初版1972年)
絵画や美術を見るとき理屈はいらないという人 もあるが、何のために、誰が、何を、いつ作品にしたのか、など自然と知りたくな る。時代や社会背景や関
連する情報は作品を楽しむ ためには必要だと思う。近代以降の美術自体が目的となった時代はともかく、西欧では、日本にはない抽象概念の擬人化な
ど我々にない感覚 があるし、キリスト教や宗教美術がベースとなっているものが多いル ネサンス以前は多少の理屈は必要だと思う。美術史や美術論も
様々あるが、ルネ サンス美術を楽しむためにはイコノロジーという学問があることを知るとさらに楽しい。古い 絵画を見る知識はすごい、と感激したし、必
要なのだと思っ た。
ゴンブリッチは ヴァールブルグ研究所で美術作品の社会的理論的背景や図像解釈学、知覚心理学を研究。本書は、ルネサンス美術についての初期の
代表的論文集であ る(第3版1895年の翻訳)。ルネサンスの象徴表現を論考したもの。時代や文化が視覚イメージに何らかの機能があり美術や美術
史を見る前提とし て考えるべき、とし美術を理論的に解釈している。ベロッキオのトビアと天使、ボッティチェリの春、ビーナスの誕生、マンテーニャのパル
ナッソス、ラファ エロの署名の間の壁画などについての論文とそれに関連する論文で構成されている。これらの論文については学者間での議論が活発に
行われ、後代の研 究が進み、一部を修正したり美術史の内容を深める点でも貢献している。序論ではそうしたイコノロジーに対する批判への論考や、イ
コノロジーの哲学 や限界について述べており、また「象徴表現の哲学とその美術との関係」という象徴表現の理論を含む図像解釈学やシンボルについ
の論文も収録され ている。日本の学者の著作を読んでいて感心したことがあるが、元ネタはここだったのかか、と思ったことが多々ある。

「イコノロジー研究」 
エルヴィン・パノフスキー著    浅野徹、阿天坊耀、塚田孝雄、永沢峻、福部信敏訳 美術出版社
1987年 (初版1962年)

イコノロジーヴァール ブルグの直接の門下として美 術史、哲学を研究、美術を文化や時代の精神史的背景からもとらえるべき
との考えのもとに、従来のアトリビュー
トの収集のよ うな図像研究でなく、イコノロジーという方法を確立した。本書
には、ルネサンス美術に おける人文主義の諸テーマという副題が付いている。出版当時はまだ、イコノロジーがい
かがわしい占星術のようなものとの批判も多い中、イコノロジーという学問は、美術作品のカタチに対して主題・意
味するものを扱う、ということを明確にした内容となっている。(それまでの論文から1939年アメリカで出版、196
2年版を全訳したもの)
ピエロ・ ディ・コジモの作品の中から、擬形態=特定の人像が古典の姿をとっていたとして
も意味的には別の意味を与えられているのだ、ということを論考している。特に、時の翁像と盲目のクビドを時間的
な流れ、広がりのなかで分析している。また、フィレンツェと北イタリアの新プラトン主義やミケランジェロと新プラトン
主義運動との関わりの章でも、中世からルネサンス期の作品についてのイコノロジーという視点で分析している。
美術作品を読み解く見かたとしてのイコノロジー の深さ、広さに驚く。イコノロジーにより作品を解説するには、
膨大な時間と広汎な知識が必要で、実際問題としては、数をこなすことは不可能と思われる。 本書の内容は私の
ような素人には難解。

「ルネサン スの春」
 
エル ヴィン・パノフスキー 著         中森 義宗・清水 忠 訳  思索社 1973年

1952年に行われた、記念講義の前 半4講のルネサンスに関する部分をもとにした「西欧芸術におけるルネサンスとリサスンシズ」1960年の訳。イコノロジーを確立した著者の 美術史方法論を述べた主要な著作の一つ。ルネサンスを文芸復興というという解釈に対し、古代や自然への復帰として分析し、イタリア・ルネッサンスと先行す る2つの古代復興とどう異なるか、さらに、イタリア絵画の革新が西欧にどう影響したかを分析した。キューピッドやビーナスの系譜をたどってプリマヴェラに 至る古典復興像について論述。前段で、ルネサンスの意味を後半で、絵画史におけるイタリア14世紀とフランドルとの関係を分析している。難解。本書をなが めるだけでも著者の人文主義者として、また、博識の広さに驚くばかり。本書の約半分は、原注の詳細な参考文献・論述で占められている。


「美術史の基礎概念」
ヴェ ルフリン 著                                守屋 謙二 訳 岩波書店 1950年(第2版)   (初版1936年)

「美術史の基礎概念―近世美術における様式発 展の問題」1915年の日本語訳本。ヴェルフリンは、ブルクハルトの後継の美術史家。クラシック期と称したルネサンス期とその後のバロック芸術 を比較、絵画のみならず彫刻、建築などの芸術を通して様式という概念で推移を論じたたもの。そこでは、「線的、絵画的」「平面と深奥」「閉じられた 形式、開かれた形式」「多数性、統一性」「明瞭性、不明瞭性」という5つの対概念による分類で論じている。分類の例として多数の作品をとりあげている が、モノクロの古い印刷のためわかりずらい。古典的名著の1冊であるが、古書店で割安で購 入した本書は、旧仮名遣いで、訳が古文のような文体のため、一通り目を通すだけでも難しかった。

「絵 画を読む イコノロジー入門」
若桑 みどり 著                 NHKブックス
668 日本放送出版協会 1993年

      パノフスキーらのイコノ ロジーに関する著作は、素人には難解なので、初心者向けのイコノロジーというものを知 りたくて見つけた本。
放送講座の後で多少内容を改定して出版されたもの。B6サイズで200P程度の小型本であるが内容充実。図版も論述にそい構
成され理解しやすい
。尊敬すべき著者の絵画の見方につい ての思いも伝わってくると共に、イコノロジーという学問の持つ意義や何
を目ざすのかを解りやすく解説してくれる。著名で、しかも多様な解釈のできるルネサンスからバロック期の有名な絵画作品12をテ
ーマとし、それぞれに、美術史上の位置づけや背景、作者について先人の研究成果を踏まえて論述してくれ、
1枚の絵に奥行きを感
じさせてくれる。カラバッジョの果物カゴ、ティチアーノの聖愛と聖俗、ボッティチェリの春、ミケランジェロのドーニ家のトンド、フラアンジ
ェ リコの受胎告知、ブロンズィーノの愛のアレゴリー、ジョルジョーネの嵐、デューラーのメランコリアT、ブリューゲルのバベルの塔な
ど。
1枚の絵から関連する美術史上のテー マ、話題の広がりは著者の博識のなせるところ。巻末に、本書の参考図書一覧があり、
イコノロ ジーやルネサンスに関する関連図書を知ることができた。


 「マニエリスム芸術論」
若桑 みどり 著                ちくま学芸文庫 1994年    (岩崎美術社 1980年)

16 世紀マニエリスムは、ルネサンスの凋落の末の、美術の水準を落とさないための様式的表現からなる。マニエリスムは歴史的には認められたり、否定されたりし ながらも認められてきた。現在でも時間的、地域的にいつからどこからと線引きできない存在ではあるが、著者は、美術家の個々の作品ごとに見るべきとの認識 である。1977年から79にかけて刊行された中の文章をまとめたもの。著者は、日本にマニエリスムに関する書物を初めて出版した研究者でもある。本書 は、マニエリスム美術についての多くの考察を図表や古典からルネサンス期の美術作品や文献を参照しつつマニエリスムを論じており、ルネサンス美術の作品に ついてのコメントも多く、著者の博識に感心させられる。各論をみるとパノフスキーのイコノロジー研究の成果を多く土台にしているように思う。巻末には、マ ニエリスム関連年表も収録されている。著者は先ごろ亡くなられた。素人への美術解説も人柄を感じさせ尊敬できる学者だった。合掌。


「バ ロックの光と闇」
高階 秀爾 著    小学館 2001年

      バロックの光と闇美術史の中でのバロックとして17世紀から18世紀半ば頃の表現技法を分析、解説
してくれる。もと もとバロックという言葉は、ゴシックと同様に、ギリシャ彫刻のよう古典主義に対して、粗野
な、技巧的な、不規則なという悪いイメージで使われ、歪んだ真珠に由来するといわれる。
本書は、西洋美術史の著名な研究者で多くの著作や翻訳があるが、1995年から1999年に、発表され
ていたものを1冊にしたもの。バロック美術を紹介するために、古典やルネサンス美術との違いを図版や具
合的な西洋美術の作品や音楽、建築から解説してくれ読みやすくわかりやすい。イタリア各地の有名な作
品についても多く触れられているので、バロック美術だけでなく西洋美術史の入門書のようだ。




「芸術 と狂気」
エドガー・ウィント 著      高階秀爾 訳 岩波書店 1965年

1960年BBCでの6回シリーズの放送講座 をもとにしたArt and Anarchy1963 の全訳。エドガー・ウィントは、名著「ルネサンスの異教秘儀」などを発表している美術史、美学、哲学の学者としてイタリア・ルネ サンスの美術に関心のある人には有名。著作のほとんどが専門的な論文であるが、本書は、一般向けに発行されたもの。ルネサンス美術に関する著作かと思って 読み始めると全く違うのでとまどう。芸術の名のもとに大量生産される悪しきもの、芸術が人寄せの見世物扱いし、やたらに、移動するなどの現代の美術への扱 いや形態分析による美術の細分化だけに関心をもつ美術史家など、批評精神で語られている。造形美術だけでなく、建築、音楽、文学など幅広い領域にわたり、 また、古典から現代までの深い造詣と知識をもとにした現代文明批評という内容となっている。


「美 の思索家たち」
 
高階 秀爾 著               新潮社 (1967年)

個 人旅行で海外の美術館や教会美術を見に行くには、(語学のできない私には)それなりの下調べが必要で、日本語で読めるインターネットではたりず、結局本に 頼る。タイトルや目次で選んだり、参考文献に載せられている図書を選んだりしてきたが、海外の美術史家・学者のものが経験的には参考になった。しかし、そ の美術史家がどのような美術観をもっている人なのかは素人にはわからない。そうした専門家自体どのような人か調べていた時、本書を見つけた。当初の目的と は違ったが、美術批評や美術史の見かたに画期的視点を提供した学者、研究者の名著を紹介するユニークな本であった。有名な美術史家、批評家、研究者を網羅 しているわけではないが、フォション、ゴンブリッジ、シャステル、パノフスキー、マルロー、クラーク、ペヴスナーなど14人をとりあげ、それぞれの
業績を 代表する著作をテーマに紹介し、その意義を解説してくれる。あとがきによれば、芸術新潮の編集企画として発案され、1930年代以降に欧米で発表され、且 つ出版時点で邦訳されていないものを紹介するというところからスタートしたという。1930年代はそれまでの分析的な見かたが中心であった美術研究、美術 史、美術批評から美術の見かたを統合化する動きに転換していた時で、後に大きな影響を及ぼした偉大な美術史家が多かったことを紹介してくれる。このような 視点で選ばれた14人、14点の図書のため、よく著作者としてみかける学者、美術史家がけっこう抜けているのは残念。


「ルネサンスの異教秘儀」
エドガー・ウィント 著            田中 英道、藤田 博、加藤 雅之 訳 晶文社  
1986

異教秘儀エ ドガー・ウィントのまとまった書籍としてはこの本だけらしい。読みだしたが私のような素人には古代の哲学、神話の知識がないので非常に難解。単語がわから ないと意味するところまでたどりつかない。論述に即した図版があるので、それと見比べながら何を言っているのかを探りながら読んだので一読するだけでも時 間がかかった。まず、異教秘儀という言葉から悩まされた。秘儀とは宗教的な秘密の儀式というニュアンスだが、つまるところ、ルネサンス美術というと合理的 精神による美術へのスタートのようにみられるが、そこには異教の思想が背景に厳然とありルネサンス美術に埋め込まれているということらしい。ウィントはそ もそも美学、哲学を出発点としており、美術を見る判断として美学的判断には客観的指標はないと主張しており、美術作品がもつ目的が創造的に達成できていれ ば適切に評価すべし、としている。本書では、ピコ・ミランドラの思想=秘儀を儀礼、比喩、魔術的なものとしてとらえルネサンス芸術に表現され、ネオプラト ニズム的精神が埋め込まれている。=を軸に、ルネサンス美術を解明しようとするもの。三美神、プリマベラ、ヴィーナスの誕生、聖愛と俗愛、などを取り上 げ、秘儀の精神がボッティチェリやダビンチの絵画にも隠されていると述べている。本書の半分が詳細な注釈を占めている。また、後 段に訳者が解説を載せてくれており、これを読んで初めて内容が分かったところがあり助けられた。


「絵 画の見かた」
ケネス・クラーク著             高階 秀爾 訳 白水Uブックス
1066  白水社 2003年  (1960年)

イ ギリスを代表する美術評論・美術史家である著者が、サンデータイムズに連載した絵画の名作について解説したシリーズを本にまとめ1960年出版。その後に 絵画の見かたとしてまとめられた。ティチアーノ、ベラスケス、ラファエロ、ダビンチから近代作家までの名作16点を取り上げ、一般向けに解説している。一 般向けとはいえ、それぞれの作品についての詳細なデータや参考図版をつけ、その作品だけでなく、作家の意図や話題を発展させ、絵画の本質を探ろうとして読 ませ、単なる作品紹介で終わらない。参考図版についての紹介も添付されている。ケネス・クラークはダビンチのデッサンの分析、19世紀ゴシックリバイバル の分析などの専門的業績だけでなく風景画論、裸体論など、リードと並ぶ英国の数少ない美術史家として有名だが、優れた文明批評を表すなど知識人として多くの著作・発言がある。

「寓意の図像学」  
 アンドレ・マソン 著            末松 壽 訳 
文庫クセジュ 白水社 1977年  (1974年)

西 欧美術を理解したいと思う時、我々に馴染みがないのがアレゴリーや擬人化という表現だ。単に女性や自然、虫などが描かれていても、その美術家の意図やその 時代の表現の原則にのっとって、ある観念や意味を表現している。アレゴリーは古代や中世にもアトリビュート意外にも存在していたが、ルネサンス期に完全に 成熟したといわれる。さらに17、18世紀には規範というカタチで法典化された。イタリアに始まり、中央ヨーロッパまで拡大した。本書は、寓意の図像に関 して、何に由来してきたのか、どんなものを媒介物としてきたのか、アレゴリーにとりあげられるテーマにはどのようなものがあるか、さらに、図像の目録まで 収録されている。新書版ではあるが寓意の図像に関する入門書、紹介する内容になっており、パノフスキー、ヴァールブルグ、エミール・マール、シャステル、 ゴンブリッジなどの先人の研究がこの分野が深められたことも教えてくれる。


「キリスト教図像学」
マルセル・パコ 著              松本 富士男、増田 治子 訳 文庫クセジュ
480 白水社 1970年

1962年に出版されたものの訳本(初版1952年)。 キリスト教図像学の翻訳ものの概論として初めてのもの。序論で、キリスト教美術についての1世 紀から20世紀までの流れがわかるようにもなっている。図像の主要なテーマとその表現手法を要領よくまとめている。自然、学問、旧約聖書、キリスト、マリ ア、聖人、終末などの章にまとめている。ヨーロッパの教会などを見て廻るには良い基礎情報になる。図版は少ないが、紹介されているのは著名な作品であり、 他の書籍などで見ていくとわかりやすい。パノフスキーらの図像解釈学と違い、図像自体の分析を探索するのが目的の図像学で、エミール・マールの図像学に近 いが、キリスト教図像の概要を知るのにわかりやすい。

「マグダラのマリア」
岡田 温司 著               中公新書1781 中央公論社 2005年

      キリスト教においてマグ ダラのマリアほど評価や解釈の幅がある人物はいないと思う。キリスト教の教義の解釈や宗教
裁判により、当初含まれていた異教信仰、地母神信仰は徐々に排除され、異端として女性神を切り離してきた。マリア信
仰はさすがに排除できなかったが、マグダラのマリアは娼婦から聖女へと波乱の評価をなされている。歴史学的には娼
婦でなくむしろ富裕層の娘らしい。ローマカトリックも近年、マグダラのマリアについてもやっと公式に評価を変更した。
それだけ に、キリストの妻だったという説もあり、あながちはずれてはいないのでないかと思われる。そのほうが、聖書
の場面や 美術史上の絵画での解釈は素直に受け取ることができる。
本書は、こうしたマグダラのマリア研究ではなく、美術作品をとりあげ、どのように信仰され、表現されてきたかを、ルネサ
ンスからバロック、近代までとりあげ、多くの図像と美術作品の紹介がある。最初に聖書におけるマグダラのマリアの扱
いなどの紹介もあり、キリスト教、バロック以降のマグダラのマリアの美術をとりあげよくわかり、おもしろい美術史のよう
にもなっている。


「聖書の名画はなぜこんなに面白いの か」
 井出 洋一郎 著      中経の文庫 2010年

      たしかに、中世からルネ サンス、マニエリスム、バロックの西洋美術を鑑賞するには、宗教画がほとんどであった時代
と聖書などの場面が主題としてとりあげられている美術が多いので、聖書の内容をわかっていることにこした事はない。
無宗教で信仰心の薄い私にとっては、美術としての素晴らしさは感じても、それにこめられた宗教色を切り離して鑑賞
しているので、テーマや登場人物がわかれば十分ではある。申し訳ないが、カトリックや聖書の内容には、抵抗感が
強すぎ素直には読めないので、テーマを知るつもりで図版の多い文庫判ながらやっと読み通した。著者がいうように西
洋美術の鑑賞のための基本的なテーマを旧約、新約の聖書の大筋の中39のテーマを選び、西洋絵画鑑賞の初心者
向けガイドとして紹介してある。わざと学者の講演質疑のスタイルにしわかりやすくしているらしいが、かえって読みに
くかった。カトリックの聖書の内容への肯定に立つスタンスや構成上の繰り返し、著者の自慢話もちりばめた講演スタ
イルかもしれないが、なぜ、聖書の名画が面白いのかわからせてはくれなかった。
各項目ごとに絵画を紹介して
くれているが、もっ と他に代表させるものがあるだろう思いながら小さい図版をみながら感じた。
有名な絵画は本には掲載できなかったのだろうが、絵画自体へのコメントも少なく、同じテーマの名
画をより多く紹介してくれてもいいと感じた。


「アー トバイブル」
町田 俊之 監修              在団法人 日本聖書協会 2003年

      本来、聖書をよく理解しやすいよ うに、絵で見る聖書というものらしい。原本は台湾のもの。 バロック期以前の西欧絵画は宗教画以外は少ない。我々非
キリスト教徒には馴染みがないものが多く表面的な鑑賞しかできない。テーマも、何を描いたかも、登場人物は誰かも、静物は何を象徴しているかもわか
らない。特に教会や修道院に多くの美術作品を保持しているイタリアでは基本的なことを知っておきたいので、本書が目についた。前半は旧約聖書、後半
は新約聖書の内容からなり、聖書のテーマと絵画、聖書の文言とがセットになっている。すべての絵画が著名というものではない。絵画のタイトルも一般
的な美術のタイトルでないので多少わかりにくい。 巻末には、作者名別索引と作品所蔵美術館別索引が付いているので、現物を見に行くには参考にな
る。ロンドン・ナショナルギャラリー、プラド美術館、ルーブル、エルミタージュ美術館が、イタリア各地の作品に次いで多く採録されている。(19カ国の多 く
の美術館から選ばれている)。聖書に即してつけられているためか、絵画の名前がもっと一般的な名で紹介されていればもっと助かったのだが。


「建築と都市の美学」 大槻武志 編著    陣内秀信 監修  喜多 章 写真  建築資料研究社
イタリアU 神聖 初期キリスト教・ビザンティン・ロマネスク   2000年

イタリアV 優美 ロマネスク・ゴシック               2000年

イタリアX 奇想 マニエリスム(後期ルネッサンス)       2001年

       西洋建築や西洋建築史の本は多 数あるfが、イタリアに限定した建築史は少ない。特に具体的に写真、図面、線画で視覚で見せてくれる6冊シリーズの
うちの
3冊。   この3冊の他には、T古典・ギリシャ・ローマ、Wル ネサンス、Yバロックとして、全巻それぞれに収録建築物リストがそ記載されているの
で期待していたがどの書店や古書店、アマゾンにもないので出版社にメールで問い合わせしたら出版していないという返事。いい加減だな。がっかり。それ
でもイアリアに限った建築の紹介だけにポイントをおさえ、コンパクトに特徴を整理してくれている。網羅しようとしているためか、1建築あたりの写真が少な
いので特徴ある部分しかわからないという難点もあり、紹介文も短く所在地もわかりにくいなどの不満は残る。せめてインデックスに整理してほしかった。
写真はそれなりに美しい。


 「ルネサンスの神秘思想」

           伊藤  博明 著 講談社学術文庫2095       講談社    20012 年    (1996年)

          ル ネサンス期の美術、例えば、サンピエトロ・署名の間のアテネの学堂、フェッラーラのスキファノイア宮の壁画、シエナ・ドォーモの
ヘルメス像モザイク床などに古代の学者や神話、占星術の装飾があるのはなぜか。異教の図像がカトリックの宗教施設によくあるのが
不思議だった。ボッティチェリの「春」や「ヴィーナスの誕生」がプラトン主義の解釈による古代思想とキリスト教の融合によるものとの紹介
はよく見かけるが。

本書は美術との関連での思想史というよりも、14世紀から16世紀のイタリア、特にフィレンツェでのプラトン主義を中心とした思想史
といえる。ペトラルカの人文主義からスタートしサルターティ・・・フィチーノ、ピーコまでのルネサンス期の神学、哲学の流れやそれぞれ
の特徴、内容を紹介してくれる。文庫なのでもう少し軽い読み物かと思いきやそれぞれの思想、哲学をポイントを押さえて紹介され、ギリ
シャ、ヘレニズムから占星術、カバラなど今までの図書にみなかった解説は非常に面白い。思想史の入門書と帯にあったが、文章は平
易ながら内容を理解することは素人には難解。フィチーノやピーコがいかに古代の思想の中にキリスト教と同じ思想があるとこねくり回し
て解釈してきたか。また、彼らの果たした役割がいかに大きかったかは理解できる。

こうした論文的な図書によくある「注」がないので、文章を追うことができる。単語の理解という点では多少はあって欲しい部分もあるが。

巻末に、14世紀から16世紀までの思想、文学、美術史の年表、参考文献、出典一覧、索引などが、文庫化に当たって最新の情報ま
でを追加されている。
特に、参考文献は詳細で、より専門的に知識を得 るのに指針となる。


「美術の物語」 16版

   E・H・ゴンブリッチ 著  天野衛、大西広、奥野犀、桐山宣雄、長谷川摂子、長谷川宏、林道郎、宮腰直人、共訳  ファイドン社 2007年(1950年)

1950年に出版されたゴンブリッチ の「美術の歩み」の改訂 16版の全訳。700pにせまる厚いカラー版。
先史時代 から20世紀後半までの美術の変遷を28章にわけて、それぞれの時期の美術の主要な動きを、絵画・建築・彫刻の作品をつうじて解説してくれる。
単に作品 を様式や手法で解説するというより著者の知覚心理学をもとにした美術の見方で分析してくれる。変遷をもたらす社会の変化や環境から経緯を理解させて
くれ、美 術史だけでない美術の見方をも示唆してくれる。西洋美術中心であるが非常に示唆に富み美術史の定本と言ってよい。本 版では20世紀後半の美術の動
向につい てモダニズムの変化や新しい知見による過去の見方が変わる美術の理解について1章が追加された。
管理人の 関心のある中世からイタリイア・ルネサンス、マニュエリスム、バロックへの変遷についても、当時の政治、経済、社会の動きがいかに美術に影響したか理解さ
てくれる。宗 教改革やフランス革命、産業革命と美術など自然と理解できる。イタリアル・ネサンスの影響がどう波及したのか、アルプス以北では肖像画、風景画、
風俗画が なぜ発展したのかなどを理解させてくれる。
巻頭のは じめにで著者の本書を執筆するにあたってのスタンスが、序章では著者の考える美術の見方を述べられており、これが美術の見方の指針となっている。
管理人にとってはよい指導書である。
巻末で は、参考文献、年表、地図、国別の掲載図版リストがまとめられている。さらに、美術をより理解したい人のための著者が推奨する、アンソロジー、各時代ごの
論文、美 術史とその分野ごとの出版物を紹介してくれている。日本語訳のある参考図書を探すにも便利なように編集されている。


「美術の歩み」 上・下巻
E・H・ゴンブリッチ 著  友部 直 訳   美術 出版社 1974年  (1950年)

      数年前に読んだ「美術の物 語」16版 と内容は基本的には同じ本。本書は、12版(1966年版を底本として72年版をもとに加筆)を
もとに訳されたもの。図版はモノクロで、章のタイトルをはじめ日本語訳の趣 旨は変わっていないが文章はほとんど変わっている。この友部訳の
ほうが私にとってはしっくり理解できる。
原始の絵画から20世紀前半までを27の章で絵画、建築、彫刻を西欧美術中心に変遷を紹介してくれる。
イタリア美術に関連するのは、5世界の征服者、6岐路にたつ芸術、8るつぼのヨーロッパ芸術、9戦う教会、10教会の勝利、11貴族と市民、
12実在性の征服、13伝統と革新T 14伝統と革新U 15獲得された調 和、16光と色 18芸術の危機、21力と栄光Tの各章である。
その他の章ではイタリア以外の地域の美術を論じているが影響度合い、違いな ども述べられており他の章を含めイタリア美術の見方を教えてく
れる。
主要な作品を通じて、作品を見ることと知ることの関係を重視して美術の見方をも教えてくれる。イタリア美術についても初期キリスト教美術か
ら中世絵画への
転換やジョッ トについても十分論じられていたのに気づかされた。久しぶりに読み直したことになるが、優れた美術案内にもなって
おりまた鑑賞の視点を改めて気づかされた。
良書である。
各巻の巻末に索引と図版リスト が、著者の推薦する参考文献紹介となっている「美術書についての覚書」も掲載されて
いる。



「ルネッサンス再入 門」 
          澤井 繁男 著  平凡社新書859     平凡社   2017年

           書名からルネサンスという文化・社会・芸術についての再考かと手に取ったが、内容は全く違い、ルネサンスという区分された時間がいわゆるルネサンス文化
          一色でなく前時代の文化を含んでいるとして時代区分について考察したものだった。確かに、芸術・美術についてはある意味ターニングポイントとしてのエポッ ク
         はあると思うし、それによりルネサンスと区分されることは素人にはわかりやすい。が歴史学として社会・文化・経済など広い時代区分として設けられるかは疑 問
          のあるところはよくわかる。著者は、中世に続くルネサンス、さらに近代への転換は、異なるものが共存する複数主義史観と称し、中世的な見方と近代への視
          点が並行していたと論述。ルネサンスと言われる時期に、錬金術と化学、占星術と天文学があり、次いで、文学の上では、イタリア最初の散文による物語
          「イル・イヴェリーノ」を素材に詳述。後期ルネサンスから近代への移行期についてはカンパネラの「事物の感覚と魔術について」を取り上げ、異なる思想が併 存
          していたことを述べている。
          著者の博識には感服するものの、1つの時代区分の中にすべてが一斉の思想、社会へと転換することはありえないのは当然のことではないか。時代の転換に
          ついてエポックメイキングな事象は存在するものの、時間軸的にも地理的な伝播についても常に複数の価値観が存在し、影響しあい斬新的に変化していくも
           のであろう。ルネサンスも同様であえて複数主義史観などと唱えることもないのでは?
           むしろ、ル・ゴフ「時代区分は本当に必要か?」藤原書店 2016年の著作のほうが時代に関する見 方のほうが刺激される。


       「受胎告知」 絵画に見るマリア信仰   
高階 秀爾 著  PHP新書1165       PHP研究所   2018年

      受胎告知は中世以降の美術で数多くの作品が描かれてきた。キリスト教絵画の なかでも分り易いテーマでもあるので旅先でも美術
館でもよく見かける。それもあり、著者がどのように解説してくれるのかを期待して手にした一冊。著者は多くの著作があり、どれも論
理的でありながら素人にもわかりやすい文章で論じられるので尊敬する評論家でもある。
 本書は、多くの受胎告知作品を単に解説するのではなく、中世からバロック、それ以降までを受胎告知という作品を通して、各時代の
美術的特徴や社会背景を完結にまとめてくれる。また、マリヤ信仰、キリスト教美術としての意味や変遷までも触れられ、やさしい美
術史の入門書となっている。
新しい知見や情報はなかったものの、コンパクトにまとめられており頭の中を整理できる。新書版でありながら、小さいながらカラー図
版も多く入れられわかりやすい。
一方、簡潔な結論だけの文章には著者のいつもの著作と違い物足りなさを感じる。

 

      「日本人にとって美しさとは何か」
     高階 秀爾 著                  筑摩書房   2015年

     著者や若桑氏の著作 は、中世以降の西洋絵画の様々な疑問に答えてくれ、美術を観る視点を示唆してくれる羅針盤のような位置
           づけになっている。本書は、題名のとおり、日本人が美しいと感ずるのはどのようなものか、日本人の美意識の源泉を考察した著作集
     である。おそらく、そのためには、西洋・東洋の美術との違いの中で論点を整理してくれるのでは、と手に取った一冊。
      予想どおり、日本人が著わしてきた文学、美術、建築などが、中国や西洋からの知識を取り入れつつ、独自の価値観により変換さ
     せて表現してきたか、その特徴や姿勢を幅広い視点から論考している。日本語のもつ文字の特性、絵画と文学の結合、クローズアッ
     プと切り捨てに特徴のあるデザイン性、自然への視点、アミニズム観の継承、同一画面における複数視点の表現、対象そおものより
     状況の重視、などなど、絵画に限らず、日本美術に特有の美しさの源泉を具体的事例をもってわかりやすく解説してくれる。
      過去に発表された講演や著作を編集したもののため、同じ論点の重複が気になるものの、西洋美術における再現性、写実性を追求
     し対象に集中し「合理的視点を重視するなどの特徴との対比により、日本美術、西洋美術両方の視点示してくれる。


    
「絵を見る技術」 ―名画の構造を読み解く
     秋田 麻早子 著                  朝日出版社   2019年

     絵画の見方については、自然に感じるままに見るか時代背景や作家の情報などを理解して見るかという言い方がさ れること
     が多いが、その点、本書は絵画の見方をテクニックとして教科書的に紹介しているユニークな本である。
    
本書は、絵画を見るには徹底した観察が必要でそのための見方がある、と指摘。また視覚的な情報を いかに言語化できるよう
     にすることが絵画の理解にもつながり、また見る人自身の美に対する価値観を自覚させてくれるという。つまり、何に美しいと
     感じたかを説明できるし、他者との感覚の違いを認識させてくれるとする。見るテクニックとしての技術論になっている。
     造形的に正確に読み解くことを重視したスキームを6つの章立てにより解説。
      主題の見つけ方、視線の順路(誘導)、バランス、色の働き、配置・構造、統一性(表面的特徴と構造)として、章ごとに
     具体的な絵画・名画を事例にしながら論を解説するので具体的でわかりやすい。
     ただ、ここで述べられた見る技術は絵画自体の分析的解釈の文法であり、絵画の鑑賞のための一側面に感じられる。
     このスキームであてはまる絵画はどうしてもバランスや安定観の要素が強い絵画になり緊張感や不安定感、刺激する表現
     一見、稚拙な表現などを評価しずらくなるのでは?著者は構造的に評価できるといっているが。
     著者自身、名画と呼ばれるものはこのスキームに当てはまるとしているが、優れた文法にのっとった絵画・名画が好きか嫌い
     かの判断とは別物という。
      私としては、表面に現れた印象をより重視したいし、作品の時代背景、位置、作家の置かれた環境などの情報が絵画の
     理解や印象に大きく影響すると思っている。ただ、本書は、絵画を見るときにはどこから見るかとか、どこを見れば全体像を理
     解できるかといった基本的な見方を再確認できる。
     
 
   「祭壇画の解体学」 イメージの探検学U  サッセッタからテントレッ トへ
     遠山公一、喜多村明里、松浦弘明、足立薫、金井直、越川倫明 共著  ありな書房  2011年   
  
    西洋絵画の中世、近世は宗教美術が大半で、フレスコやステンドグラスを除けば現在見ている絵画の多くが祭壇画の 主要な
     パネルだったり、一部だったりすることを知る人は少ない。
    
祭壇画とは礼拝の場所での装飾であるが、決まりはなくその教会や聖人の教義を美しく伝えるものと して10世紀前後に現れ
     たが、12世紀には祭壇上部に置かれるのが主流となる。その後、ドウチョのシエナ大聖堂の多翼祭壇画の出現以来大規模
     な祭壇画が生まれ、マザッチョの遠近法の登場後、祭壇画の形式などが統一化されてくる歴史を持つ。
     本書は、イタリアのルネサンスからマニエリスム期の6つの祭壇画とその作家について、サッセッタ、マンテーニャ、ラファエロ
     ブロンツィーノ、ティチアーノ、ティントレットの描いた祭壇画としてどういうものであったか、来歴や表現を詳細に分析した論文
     集になっている。
     それぞれの同時期の社会的背景や他の作品との比較などイタリアの美術史としてみても読める内容となっている。
     図版はモノクロが多いものの解説されている論点をわかるように選定されているので分り易い。
     

      
     「ルネサンス 経験の条件」 
     岡崎 乾二郎   文春学芸ライブラリー  思6    文芸春秋   2014年 


    本書は、雑誌「批評空間」増刊号で発表された「モダニズム・ハードコア」の一部が2001年発表されたものを、 後日単行本
    化されたものの、文庫化版。
    
著者は自身が作家でありながらも幅広い知識によりプロデュースや文筆活動もされている。著者は本 書について、マザッチョ
    やブレネレスキが美術史上に正しく理解、評価されていないことを正すことを目標にして書き始めたと述べている。特に、ブレネ
    レスキの透視図法がもたらした影響と美術史上の革新を全体を通じて論述している。また、ブランカッチ礼拝堂の壁画の分析
    は著者の美術史上の発見といえるもの。
     全体は7つの章と追加の「信仰のアレゴリー」の8つの項目からなっている。まず、ロザリオ礼拝堂をもとに異なる次元の表象
    が組み合わせられたことの意味を論じた「アンリ・マチス」。次いで、透視図法をキーに、ブレネレスキとアルベルティを論じた
    「想像上の点」。ドォーモ・クーポラの建築を切り口に不完全性は必ずしも完全性を包含されうるとする幾何学原理と比例原理
    が実現する場合を論じた「転倒する人文主義」、 ブレネレスキ伝に語られたグラッソ物語とダンテの神曲を例として射影幾何学
    が透視図法から始まったとして図型の同一性を考察した「射影変換」、第五章「多声と記譜」では、ブランカッチ礼拝堂の壁画
    が、マザッチョ、マゾリーノの時代からリッピが引き継ぐもかわらない統一性への考察により、原寸大のコピーの手法を明らか
    にし各壁画の対称性を分析。「三位一体」では、遠近法の発達が時間、空間認識につながったとし、見るものと見られるものと
    の関係により神を表現したことを論じた第7章「確定されえない場所」からなっている。
    最後に、フェルメールの「信仰のアレゴリー」を題材にしてイコノロギアに基づいた表現による分析を論じた文章を付加した本に
    なっている。
    いずれにしても、本論の文章は非常に難解。何度読み返しても理解できない文章が多く、読んだ内容が正しく理解できているか
    ははなはだ疑問のままだ。
 

   「聖母像の到来」
若桑 みどり 著              青土社   2009年

      この本はネットでタイトルだけで 購入してしまったので、日本におけるキリスト教の浸透と聖母像の受容と変遷を論じたものとは思わなかった。
しかも若桑先生の急逝による遺作となった著作であった。
16.17世紀における日本のキリスト教美術を世界との関係の中で分析している。スペインはキリスト教の布教にあたっては、征服によるもの
であったがポルトガルは現地文化との融和策をとって日本や中国に侵攻した。その過程で聖母像が利用されることになった。地域ごとに存在
していた女性母神の普遍性を借りて布教してきた。その後の禁令後は潜伏キリシタンにより神道の子安明神、仏教の子安観音という形でカム
フラージュししのいだとされる。
 第1〜3章では16,17世紀の世界史の中でのキリスト教の動きとイエズス会の政策を、第4章ではザビエルがもたらした聖母像がどのよう
に受容されてきたか、第5,6章では現地文化との融合を進めたヴァリニャーノの功績を、第7章では日本の代表的なキリスト経美術である「聖
母十五玄義図」をとりあげ分析するとともに、版画の功績を論じる。第8,9章では禁令下での潜伏キリシタンの分析を通じて聖母像を論じてい
る。著者のイコノロジー研究の成果を表した一冊だと思う。


      「デザインのデザイン」 
     原  研哉 文            岩波書店     2004 年
  本書は大分以前に購入していながら積んどく本の中で一番古いものになってい た。購入した時は現役で建築やデザインに関わる事が多く
 考える材料の参考にしたくて購入したもの。著者は著名なグラフィックデザイナーであるばかりでなく、 田中一光氏の後を次いで無印商品を
 牽引したり、瀬戸万博の誘致や長野五輪のデザインなど国策的なプロデュースにも関連し て日本のデザイン界をリードされてきた。
 その著者が日本のデザインはどうあるべきかという視点をもちながらデザインするとはどういうことかを 論じたもの。
 デザインは基本的に個人の発案ではなく、社会の側に動機があり、人々との間に共有できる問題を発見し解決していくものがデザインである
 と述べている。
 日常を未知化することで、モノやコト本質を考察していくこそが発想の原点と述べ、感覚 を通じて得た情報がそれによって呼び覚まされた過
 の感覚が融合したものがイメージとして形成されるが、デザイナーは脳の中に情報の建築を行うのだという。、

 ただし、本書が書かれたのは20数年前であり、象徴的に例示されているデザインやプロデュースは、現 代の感覚とはややあいいれなく感
 じてしまう。国策的な仕事が多かったせいか、優れたデザインであることは理解できるが一般人の生活感とは違うと感じてしまう。  








街を知るタイトル


「フィレンツェ −初期ルネサンス 美術の運命」
高階 秀爾 著              中公新書118    1966年

      ルネサンス美術に関する知識を求 めると大抵の入門書の参考文献に、日本語で読めるものとしては本書がとりあげられている。基本の一冊と
いえよう。
14世紀 末から15世紀の初期ルネ サンス美術の動勢を知るため、最低限の知識としての政治や哲学の状況と美術作品が生まれる
背景、作品の見方について多くの示唆を与えてくれる。なぜ、フィ レンツェにルネサンスが始動したかを直接的に回答を与えてくれるものではな
いが、ルネサンス美術の解説、多くの西欧研究者の成果をふまえた紹介をしてくれ ている。新書のため、図版が少ないがコンパクトに、初期ル
ネサンス美術のポイント、及び、栄光がなぜ持続できなかったかを示してくれる。巻末に、参考文 献、収録図版リスト、年表がついており、参考
文献にも解説があり、フィレンツェやルネサンス美術についての情報を知ることのできる役立つ手がかりを与えて くれる。


「フィレンツェ」 世 界の都市の物語13  
若桑 みどり 著             文芸春秋 1994年

      フィレンツェ04年、初めてイタリア旅行にツアーながら行き、イタリアに魅了された。中でもフィレンツェには感動と共にフラストレーション
を 抱えてしまった。行きたいところには行けず、わからない美術が山ほどあり、また近いうちに行きたいという思いと共に、フィ
レンツェへの疑問を知りたくてしかたがなかった時に出会った1冊。フィレンツェの街の成り立ち、中世、ルネサンスを生み出す
ことになったコムーネ、アルテ、今に残る旧市街、メディチとメセナ、ヴェッキオ、ピッティ、ドォーモなど主要エリアの盛衰、ウフ
ィッツ美術館、さらには、美術史家としての著者の視点で解説される聖堂や美術作品ガイドなどこの1冊でフィレンツェのことは
殆んど理解できる。知った上でフィレンツェを歩くのは大いなる楽しみだ。様々な文芸賞を受賞された著者の知識と文才により
読み応えもある。フィレンツェという都市の紹介であるが、ルネサンス美術を楽しむためのガイドにもなっている。巻末には、フィ
レンツェ市の年表、図版目録・索引、豊富な参考文献も付いている。この参考文献から日本語で読めるルネサンス関連の書
を読み始めることになった。


「フィレンツェ絵画とその社会的背 景」  
フレデリック・アンタル 著        中森 義宗 訳 
美術名著選書 8 岩崎美術社 1968年

      1947年に発表された「フィレ ンツェ絵画とその社会的背景---コジモ・ディ・メディチ台頭以前のブルジョワ 的共和政体、14世紀と15世紀初期」
の全訳。フィレンツェの美術史を経済・社会的条件を前提に分析するという当時としては新しい美術の見方として注目された。上流ブルジョワ、
中流富裕層など美術家に対するパトロン、発注者の価値観により様式に影響をおよぼしているとの見方。経済・社会・宗教・哲学など当時の社
会状況分析に多くのページをさいている。同時代に多様な様式が混在するのも発注者層の価値観が繁栄したためとする。イコノロジー同様、こ
のような美術の分析手法には、単に美術の知識だけでなく、歴史、経済、哲学など博識である必要がある。一方で、すべてを経済社会による
とするという点には他の研究者からも異論が多くあった。14世紀から15世紀の美術について、ほとんど名の知られていない美術家について
も作品とともに紹介されている。特に、ジョットがかなりの世渡り上手の事業家であったことなど作家の研究としても面白い。図版と原註は本文
とは別冊でまとめられている。図版はモノクロのためわかりにくいが、本文と対照しやすく、原註も詳細で合わせて読んでおきたい。


「フィレンツェ史」
ピエール・アントネッティ 著         中島 昭和、渡部 容子 訳 文庫クセジュ675  白水社 1986

      中世・ルネサンスのイタリア文 学・文化史の研究者である著者が1983年に発表したものの翻訳。フィレンツェ中心部を歩きまわると、古い時代
の道筋が想像できるところがある。ローマ時代にまでさかのぼれる一画から徐々に拡大した中心部が残っている。一つの空間の中に、現在と重
層的な時間が隣り合っているので妙に感激する。初めてのイタリア旅行のあとフィレンツェの成り立ちに関心を持ち、探していた時出会った本。
紀元前の起源から現代まで、年代記風に事象や事件、人物と実績を挙げる事に徹し大きな流れがよくわかる。新書版というコンパクトな内容で、
起源から共和国の時代、メディチ家の隆盛の時代、トスカーナ大公の時代、19世紀後半から現代までと4つの時間的区分にしてフィレンツェの歴
史を紹介してくれている。


「フィレンツェの石」
メアリ・マッカーシー 著            幸田礼雅 訳  新評論  1996年

中身を見ずにタイトルだけで購入したが、良書 だと思う。作者は、アメリカの女流作家とのことだが著作は知らない。石畳や石づくりのパラッツォなど
からフィレンツェの石の文化論かと思って読みはじめたら、全く違った。言って見ればフィレンツェの紹介本。ただ、旅行ガイドによくあるグルメや観光
名所案内では全くなく、フィレンツェを歩くための知っておきたい歴史的情報などが豊富に紹介されている。前段では現代のフィレンツェを訪ねる旅行
記的印象で始まるが後段は建築や絵画などの美術作品と美術家にまつわる紹介となっていて、表面的なフィレンツェ紹介ではない。随筆的ではあ
るが、軽さはなく比較的重厚な語り口で、フィレンツェの歴史の厚みを感じさせてくれる。

「フィレンツェ・ミステリーガイ ド」
 市口 桂子 著                 白水社 2003年

      初めてイタリアに行こうと思い立 ち、ツアーを探したり、計画している時に見つけた1冊。旅行会社のガイドブックや女性向けの旅行ガイド本ばかり
の中にあって異色のフィレンツェ紹介本である。後で知ったが著者はボローニャに住む漫画家でイアタリア語堪能。NHKの講座でも見かけた。著
者の興味関心ごとから見たディープなフィレンツェを紹介してくれ、一般的でない、おどろおどろしいところや普通気が付かないところに視点をあて
ている。サンミニアーテアルモンテ教会とかヴァザーリの回廊とかサンジミニャーノ、ルッカなどもこの本で知った。
最初のイタリア旅行は、結局ツア
ーで行くことになり、本書で教えられたところは全く行けず、2回目のフィレンツェには個人で行ったので大半は見て歩けた。

「フィレンツェからの手紙」
松永 伍一 著             丸善ライブラリー
258 丸善1998年

      著者は、旅好きの文筆家らしい。 フィレンツェやイタリアにはまってしまった私に近い感覚にひかれて購入した。 但し、美術史でも歴史書でもガイドブ
ックでもなく、著者が感じたフィレンツを綴ったエッセイのようなもの。手紙のような文章にしてあるが、気を回しすぎ内容に目新しいものはない。


「フィレンツェ2泊3日 ルネサン スな街歩き」
 結城 昌子 著            東京書籍 2001年

    フィレンツェに出かける直前に、どのよ うに1週間の日程を組むみか検討している時に見つけた本。美術の造詣が 深い著者と
いうことは後から知ったが、本書では、専門家的に読ませないよう軽いタッチの文章とレイアウトで構成されている。フィレ
ンツェを味わうヒントにはなった。モデルコースというストーリー仕立てで基本の歩き方として読ませ、観光ポイントを押さえ
ている。 最終章ではシエナ、アレッツォなどフィレンツェから近い魅力の街の紹介もある。こうした旅行ガイド本は、ほと
んど女性が書き、女性向けに書いているので、いかにもという感じだが、本書の見方は著者ならではの視点がある。それでも
しっかり歩きたいオジサンには不満が残る。フィレンツェを歩くには、5つないし6つのゾーンに区分し、それぞれ1日以上
かけて見て歩く、というのが私のプランになった。もちろん、休館日や開場する時間など考慮する必要はあるが。


「メディチ家はなぜ栄えたか」
藤沢 道郎 著             講談社選書メチエ
209 講談社 2001年


本書のテーマの質 問を 分解する中で、筆者はコジモの財力を生み出した経済的側面、共和制といいつつ権力を集中させた政治的側面、フィレン
ツェを有数の文化国家とした文化の側面という3つの面から、メディチ家の繁栄の基盤をつくったコジモ
(1世)を分析することで質問に応えた。孫の
ロレンツォ豪華王のほうがアカデミアを通じてルネサンスを推進し、文化面や対外的にはよく知られているが、ジョバンニの後を継いでメディチ繁栄
の基盤をつくったコジモに焦点を当てている。また、分析の内容でも、ミラノの国際ゴシックに対抗するためにフィレンツェに一層のルネサンス化を
推し進めたなどフィレンツェの動きなどもよくわかる。
余談ながら、プロローグで、なぜ?という問の ためには、問の意味を明確に規定することから
始まる、と述べられており、私の関心ごとは素人の質問で、質問の内容をより具体的に分解しなければならないことを教えられた。


「緋色のヴェネチア」  
「銀色のフィレンツェ」 

「黄金のローマ」 

塩野 七生 著       朝日文庫 朝日新聞社1993年、1995年

     はじめてのイタリアツアー の 後、フラストレーションがたまり、今度は個人旅行でそれぞれの都市を必ず訪れたいと、旅行
ガイド以外で基本的なイタリアの歴史やルネサンス期を知りたくなり図書資料を読み始めた時に読んだもの。塩野氏の研
究者としての造詣の深さをベースとした歴史サスペンス小説の3部作。小説であると同時に、どこまでが史実かは区別が
つかないようなイタリアのルネサンス期の社会をいきいきとイメージさせてくれる。
おそらく政治制度や経済体制などは
歴史そのもの なのであろう。ヴェネチア、フィレンツェ、ローマそれぞれの違いや小説それぞれのテーマ
に伴う知識も面白い。3部冊それぞれのあとがきで著者本人の制作意図が語られる。


「ローマ・ミステリーガイド」
市口 桂子 著                    白水社 2004年

      ローマへの個人旅行を計画してい る時読んだ。フィレンツェミステリーガイドの印象が良かったので、迷わず購入。本書も通常の旅行ガイド本には
ない著者独特の関心事から構成され、ここで紹介されるのはまさに、ディープなローマというところ。個人旅行とはいえ、語学力のない自分にはそ
う簡単に行けるところばかりでないのが残念だが本としても面白い。カタコンベや地下遺構など、古代史の知識がない私にも関心があるところを紹
介してくれる。
2回目のローマ行きには、おかげで、ボルゲーゼ 美術館やサン・クレメンテ教会、骸骨寺の異名をとるカップチーニ修道会なども行けた。
アッピア街道のカタコンベには行けなかったが
ノメンターナ街道のサンタニェーゼ・フォー リ・レ・ムーラ教会のカタコンベとサンタ・コンスタンツァ教会
に行く事ができたのも、アッピア街道のカタコンベの刺激のおかげだ。アッピア街道へは、3回目のローマ行きで小雨の中歩き、カタコンベにも入れ、
記憶に残る1日になった。


「ロー マ」
 弓削 達 著                
世界の都市の物語5     文芸春秋 1992年 

      世界の都市物語シリーズのフィレ ンツェ(若桑 みどり著)の内容が良かったのでローマの個人旅行を計画中に古書店で本書を見つけ即購入。同じ
シリーズの本ながら著者によって見る視点、構成が全く違うので戸惑った。ローマは長大な歴史があり簡単にはまとめられないと思うが。私自身、
古代史やローマ帝国の知識はないので、ルネサンスの延長の中で紹介してくれたほうがいいのだが。 序盤は、観光ガイド風にローマ帝国の跡や
カタコンベが紹介され、ミケランジェロの時代へと進み、ローマの美術案内にも多少なっている。後段は、マグダラのマリアに関する考察がされまと
められていく。
ロー マの都市の 紹介として読むと違 和感があるが、古代キリスト教の研究成果として読むと面白い。キリスト教はその信者以外には
理不尽なところが多いが、マグダラのマリアや女性についての排 除の姿勢が明確で、男性中心、ペテロ中心の権力構造からそうなったという古代
キリスト教の研究成果は説得力はあるし、疑問を納得させてくれる。マグダラの マリアの考察と美術作品の変遷も面白い。


「塩野七生「ローマ人の物語」の 旅・コンプリートガイドブック」
新潮45編集部                            新潮社 1999年

      塩野七生氏の名著「ローマ人の物 語」を参考に、古代ローマの史跡を歩くガイド本。現在のローマ市街の中を散策する4つの代表的コースが紹介さ
れている第一章。第二章では、イタリア各地の ローマ帝国関連の遺構案内。後半の三章から五章は、塩野七生さんを紹介したり、「ローマ人の物語」
の入門ガイド。著名人の随筆的なお勧めの場所紹介なども 収録されている。ローマ市街の散策紹介でも、近くにあっても他の時代の名所には全く触
れていないので実際は、もっと時間がかかると思うし、よほどの古代ロー マ好き、ローマ人の物語好きの人向けのガイド本と思う。
ロー マは、古代から
現代までが重層的に存在しているのでルネサンス美術を鑑賞していてもそこかしこに古代ローマがある。それを目的としなくても多少の情報 が欲
しくなってくる。3回目のローマ散策では、今まで行かなかったところを行こうと思ので「ローマ人の物語」自体は手に取ったことはないのだが本書をパ
イロット判として読んでみる 気になった。
それで もやはり古代や紀元前の歴史などの基礎知識がないと本当には理解できていない。古代ローマでは
政体や年号ばかりでなく主要な皇帝など登場人物が多すぎて混乱してしまうし、古代ローマの隣接する地域のイメージがつかめていないこともあり古
代は難しい。

「シ エナ〜夢見るゴシック都市」 
池上 俊一 著                         中公新書
1614   2001年

カンポ広場やパリオで有名なシエナについて単 なる旅行ガイドではなく、シエナの成り立ち、町の構造、地域的特性、歴史的特徴などから、
      現在の
シ エナを理解させてくれる読み物となっている。中世の都市と感じさせるシエナの理由もわかり、また異教文化を取り込んだ初期キリ
      スト教、聖母信
仰との結びつきなどの 歴史的背景などにより理解を深めさせてくれる。13世紀初期に起源を持つという隣保組織コントラーダ
      の現在など、今の生活
にも根付く伝統社会な ども納得。
      ドウチョやシモーネ・マルティーニを代表とする13,14世紀の初期ルネサンスを始動させシエナ派の美術を鑑賞するにも、シエナの過去と現
      在を理
解 しているといっそう楽しめる。単なるトスカーナの山の上の中世都市というだけでないシエナを味わえる。巻末には、シエナの歴史年
      表と観光のポ
イントがまとめられて いるのはありがたい。


「ボ ローニャ紀行」
井上 ひさし 著                         文芸春秋社 2008年

      04年 〜06年にオール読物に掲載された文章をまとめたもの。紀行というタイトルとは違い、ボローニャという都市やイタリ
アという社会
に ついて、著者が感じていることを随筆のように書いている。イタリアの政治や経済のひどさは、日本と同様
だが、大きく違うのはボローニャのようにコムーネを 基盤としている地域社会が現在でも生きていることだ。特に、ボロ
ーニャは、ナチスやムッソリーニを市民のパルチザンが酷い犠牲のうえで撤退させた歴史を持 ち、中央政府にいやがらせ
をされても自治を優先する気概をもった街であり、創造都市の発祥の地でもある。イタリアの魅力は、歴史を否定する文
化ではなく、 現在に繋がっていることを自覚している街が多いことにある。現在も政治や経済に翻弄されても、根っこは
変わらない。イタリアのどの街も多かれ少なかれ、国 や州や市よりもコムーネとしての地域が基盤になっていることだ。
うらやましい風土と思わざるを得ない。著者は、ボローニャを語りながら現在のわが国の経済 や社会の方向について警鐘
をならしている。

「南イタリア シチリア紀行」
 佐々木 清 著                   東京書籍   
2002

     シチリアに は、以前「12世紀ルネサンス」(伊藤 俊太郎 著)、「中 世シチリア王国」(高山 博 著)を読み、文明の十字路、
かつノルマン王朝の優れた統治力、西欧が発展する基盤に繋がる文化の入り口として興味がありシチリア旅行を検討する時
に読んだ。マフィアとか映画とかで紹介されるものはあるが美術鑑賞旅行に参考になる図書は殆んど見つからなかった。シチリ
アを紹介するものは古代物が多く私の知識は乏しいので、本書がどこまで紹介いただいているのかはわからなかった。シラクー
ザ、タオルミーナとピアッツァ・アルメニーナ、パレルモ、エリーチェを紹介している。
南イタリアの旅行会社のツアーも多 く、ポンペイ、アマルフィ、アルベロベッロ、マテーラもよくTVで紹介している。リゾート地に駆
け足旅行する気もないしグルメにもそれほど執着はないので、シチ リアに絞った旅行にすることを決断させてくれた本。

イタリア物の紀行やガイド本は大半が若い女性が書いたり、女性向けだが、著者は男性で建築のプロであるが、我々のような
貧乏旅行会社員には参考にならないと感じた。ただ、ツアーでは、本書に紹介されているサンドメニコホテルに泊まれるリーズナ
ブルなツアーがあったのはうれしかったが。イタリア好きでも南イタリアを本 当に知るには個人で歩くには、語学が堪能でレンタ
ーで歩き回るか、バックパッカーのように時間をかけて歩くしかなさそうだ、というのが私の結論。


「須賀敦子のアッシジと丘の町」
岡本太郎 著                     河出書房新社 2003年

      著者は、東大で須賀氏の薫陶をう けた弟子とのこと。須賀の著作をもとにイタリア各地をたどるシリーズの1冊。本書は、須賀がパリからイタリア
に遊学中
と にたどったペルージャとアッシジの案内となっている。須賀氏は敬虔なキリスト教徒としてイタリアに暮らし、イタリア人のペッピーノ氏
と結婚し生活した。BSで何度か須賀敦子氏の足跡をたどる番組を見たが、明るい楽しいイタリアとは違う側面を見せてくれた。

須賀氏の本も立ち読みしたが、ありがちな観光案内やイタリア居住者の随筆というものとは全く違い、敬虔なキリスト教徒としてのイタリアでの人
生や真摯に生き方を語ったもので気軽に読むには内容が重く手がでなかった。
本書は写真と著者の文で構成されているが、暗 黒の中世とか定
形の言い回しの文章が好きになれず、文章より観光案内として割り切って読んだ。


「イ タリア 歴史の旅」 
坂本 鉄男 著                        朝日選書
444 朝日新聞社 1992年

     イタリアの 地方都市を歩く個人旅行のため、ネットで情報を探していた時、先人の旅行記でよく参考資料にあげられていたの
で、どんな本か見ておきたかった。ローマ、ヴェネチアの都市を含むが、シチリアやウルヴィーノ、ヴェローナ、マントヴァ、など
地方の小さな都市を巡った著者自身の旅行記として、又、歴史の幅広い知識と話題と共に都市ごとの旅ガイドとしてまとめら
れている。文章もうまい。行きたくなるが、車でないと無理なコースや場所で、かつ会話ができないと無理と思うので、著者の
理想的な旅行のようには行かない。ヴェネチアに行く前に読んだので、街歩きの参考にはなったし、オルヴィエート、シチリア
への下調べの情報にはなった。アッシジやサンジミニャーノには既に行っていたので再確認の情報にもなった。歴史の紹介
も学者の論文式ではないので肩のこらない話題のように読んでしまう。楽しく読めるが強い印象がなく内容を忘れてしまう。

「物語 イタリアの歴史」
藤沢 道郎 著                      中公新書1045 中央公論社 1991年

タイトルの“物語”は、著者の歴史記述の方法 論として「人物を前面にだして、それぞれの時代のイタリア社会のパースペクティブを表現」したいがた
めの記述手法としてストーリー性を表現するためという。事象の具体的記述、解釈といういわゆる時間軸による歴史の記述でなく、皇女ガラ、マチル
デ、フランチェスコ、フェデリーコ、ボッカチオ、コジモ・ディ・メディチ、ミケランジェロ、ヴィットリオ・アメデーオ、カサノーヴァ、ヴェルディという 10人を通
じて、そ れぞれの時代の状況を、ローマ帝国が崩壊した4世紀からイタリア王国成立の19世紀までを描こうとしている。ルネサンス前後のイタリア、
現代イタリアへの経過、イタリア史の概説をを知りたかったが、内容は面白いが全体としての時間的経過はわかりにくい。

「都 市のルネサンス」
陣内 秀信 著                      中公新書 中央公論社 1978年

イタリアのどの都市に行っても古い建物が混在 しているのに、日本のように不協和音を出していないのに感心する。住民は古い建物を使いずらくても内
側を改装し楽しんでいるようにみえる。本書はイタリアの建築に造詣の深い専門家だけに、著者の体験的イタリア都市論ともいえる。ヴェネチア、チステ
ルニーノ、ボローニャについて町の構造や歴史、それに加えて歴史や自然を生かした街の再生の仕組みを紹介してくれる。単に建築文化を紹介してくれ
るのではなく、価値ある歴史を現在の社会としてどのように生かし存続させていこうとするのか、特に、ボローニャの都市再生の考え方は日本にも十分参
考にする必要がある。

「イ タリア小さなまちの底力」
陣内 秀信 著                     講談社α文庫  2006年

      2004年の単行本に加筆し文庫 本化したもの。イタリアに対しては私のようにはまってしまう者もある一方、あのルーズさや経済格差、政治の不毛
や治安の悪さに嫌気を感じる人も多い。国はひどくても街や住民の暮らしにはうらやましいところがたくさんある。遺跡や古い建築物がたくさんありす
ぎ、現代生活には不便この上ないにもかかわらず、いかに修復し、歴史や自然を生かして、都市や町、建物の再生をはかってきたのか、をその過程
や単に修復するのでなく、費用の負担や仕組みをいかに作り上げてきたのかを紹介してくれる。イタリアは国レベルでなく都市国家の伝統からか街
単位での活動や住民が基盤となり支えている。著者のイタリアの建築や歴史、フィールド調査から得た造詣と体験的イタリア生活を通じて、都市再
生への知恵を紹介してくれ、日本にも大いに参考になる。電源や原発マネーに依存したり、補助金目当ての行政や金太郎飴のようなリゾート開発に
し か発想できない日本の地方も少しは考えればと思う。もととなるネタはイタリア各地の小さな町にある、と思う。小難しく考えなくてもイタリアのロー
カルを歩くための、一般の旅ガイドにない街の紹介にもなっている。


「イタリア・都市の歩き方」
田中 千世子著               講談社現代新書1347 講談社1997年

      著者は映画評論家。映画の話題が いろいろとはさみこまれる。イタリアの有名な観光都市だけをひととおり紹介してくれるが、歩き方というタイトル
のわりに参考情報はない。

「イタリアものしり紀行」
紅山 雪夫 著                新潮文庫 新潮社 2007年

      旅行ガイドと内容は変わらない。 も のしり紀行というシリーズがあるらしい。その中のイタリア編というところか。イタリアの有名な観光都市の歴史の概略
やエピソードを紹介。地図も詳細ではないが挿入されている。簡単に都市の概略を知ることができる。


「イタリア美術鑑賞紀行」1〜7 編
 宮下 孝晴 著                    美術出版社 1993年 〜1995年

1.   ヴェネチア・ミラノ編 2. フィレンツェ・ピサ編 3.シエナ・アッシジ編 4.ローマ・ヴァチカン編 5.ナポリ・ポンペイ編 6.シチリア
7.珠玉の町編・データ編 とそれぞれ分冊されている。

イタリア美術の案内、旅ガイドという スタンスでまとめられており、都市ごとに見所の美術作品の紹介がある。各編の都市名
でくくられた対象エリア周辺の中小都市も多数紹介されているのがいい。出か ける前に読んでおきたい 1冊。学術的、美術史的
な解説を突っ込んでというものではないが説明というよりポイントをおさえた観光ガイド本になっている。
7分冊になっているが、厚さもばらばらで持ち歩き用ともいえないのが残念。手紙で読者に紹介するという体裁になっていたり
ヴェネチア1日目など旅ガイド的になっていたり、ひねくりまわした編集で解りに くい。地図も単純化したイラストマップだし、町
へのアクセスの紹介もわかりにくく、取り上げられた個々の美術作品や教会、美術館の解説、紹介はとてもいいのに、全体と
してはわかりにくい。
多くの都市・町が取り上げられているのに、イタリアの州や都市の位置がイメージできないとどの編に収録されているのかもわ
かりずらく、まとめのスタンスと違い実際的でないのでもどかしい。
7巻のデータ編も美術館などのリストがあるが、実際イタリアで利用するには役立たない。むしろ、「地球の歩き方」のほうがま
だ正確で使いやすい。旅ガイドよりも、個々の美術についてのコンパクトな説明書としては優れていると思う。

ヴェネチア・ミラノ編では、マントヴァ、フェッラーラ、クレモナ、ヴェローナ、パルマ、コモ、チヴァーテ、ヴァラッロ、トリノ、アクイレ 
               イア、カステルフランコ、マゼール

フィレンツェ・ピサ編では、チェルチーナ、ピサ、ヴィンチ、ルッカ、
シ エナ・アッシジ編では、サンジミニャーノ、モンテオルヴィエートマジョーレ、カプレーゼ、ペルージャ、スポレート、オルヴィ
               エート、サンガルガーノ
ロー マ・ヴァチカン編では、チボリ、ボマルツォ、
ナ ポリ・ポンペイ編では、カゼルタ、サンタンジェロフォルミス、モンテカッシーノ、パエストゥム、マテーラ、バーリ、アルベロ
               ベッロ、サンタマリアチェラーテ、オーロラント、
シチリア編では、シチリア島の主要な街はほぼ収録、
珠玉の街編では、ベルガモ、サロンノ、モンツァ、ノヴァーラ、パヴィア、アオスタ、プラート、ピストイアが収録、その街の案内と
           美術案内がある。

  *内容が1995年発行のものなので、美術館が既に閉館していたり、長期の建物の修復のため作品が他に移されていたりで、本書の内容だけで は見ら  
   れないところが多々あるので注意。


「イ タリア都市の諸相 --都市は歴史を語る」 世界史の鏡4
       野口 昌夫 著  刀水書房   2008年        

      イタリアの都市を散歩すると建物 単体の美しさよりも街並み景観として感動することが多い。その理由を日本の都市との違いなど
から浮かびあがらせてくれる。当初は、イタリアの都市紹介本と思って購入したが、文章は随筆風ながら著者の研究テーマであるイ
タリアの都市形成史の概論編という内容。

イタリアの建築の最小単位は住戸がかたまっている街区になっていて、広場と街路と街区で都市は形成されている。街区がまとま
ったものが地区となっている。イタリアの旧市街地の建物はレスタウロ=修復、再生により生き続けており、これは単なる石組みの
建築や保守性からくるものでなく、歴史を尊重しそれを未来につなげていく意識の問題と
読み解いている。だから地区のコミュニティ
が未だに緊密であり建築と生活が継承されていく、というイタリアが分かってくる。フィレンツェ、シエナ、ピサやトスカーナの小都市も
取り上げられているが、あくまで都市の形成史からのもので、散策ガイドにはならない。ただし、都市の特性を理解させてくれる。本
書はあくまで、著者の研究成果の概論編であって散策ガイドではない。最終、第5章で著者のユニークな視点でのイタリア都市形成
分析研究の視点が紹介されている。

       「都市は歴史の中で最も繁栄した時代に作られた建築が量、質共に、他の時代を圧倒した姿である」というのにはうなずける。 


ヴェネツィア・ミステリーガイド
     
市口 桂子 著     白水社  2010年

著者はボローニャ在住の漫画家。 テレビのイタリア語講座やテキストに文章を載せている。一般的な旅行ガイドやイタリア紹介本には絶対
載らないような伝説や小話のような歴史などを紹介してくれるミステリー・シリーズの第3弾、ヴェネチア編。
相変わらず、骨や墓、中世の歴史や伝説など現在に残る印や断片をきれいな文章で紹介してくれる。
このヴェネチア編で紹介してくれているのは、お墓の島ミケーレ島やマルコポーロ、サンタルチアを切り口にしたヴェネチア本島の北側や南端など
普通の散歩では行かないヴェネチアを迷路の歩き方、行き方を詳細に語りながらヴェネチアの奥深さを見せてくれる。
以前に行った時、時間がたりなくて行き残したところばかりのヴェネチアの北側や島々の裏話はなんとも誘われる。次回はこの情報を持って
行こうと思う。

「イタリア中世の山岳都 市」
       竹内 裕二 著   彰国社   1991年

古 書店でタイトルを見ただけで購入したが、内容的にやや不満が残った。イタリアの山岳都市のなかから25の例を紹
してくれるが、建築史でも文化史でもなく、そうかといってタウンガイドでもない。山岳都市といっても規模は小さく、村と
いっても良い規模が多い。そこでの住居や街としての構成を紹介している。
ただし
学術的でも建築史的でもなく著者の感想を述べている。著者はイタリアに留学していた建築家とのこと。
25のうち6つの街は既に行ったことの あるところで、その他の街は、既に廃墟になってしまったところか車でないととても
行けそうもない全く知らない街がほとんど。
最初に山岳都市の構成や住居の 施工法、原型としての円形周壁都市について。さらに住居プランタイプの類型などを
簡単に紹介してくれている。
イタリアには非常に多くの山岳都市があるがそ の成り立ちや建築史的意味などを期待していたのだが回答はなかった。 


「イタリア海洋都市の精神」 
     陣内  秀信        講談社学術文庫2513    2018年
  本書は著者が2008年に出版した原本の文庫版化したもの。従って内容は、10年前に書かれたものである。
イタリアの中世都市国家、ヴェネチア、アマルフィ、ピサ、ジェノヴァという4つの都市を重点的に海洋国家の特徴を詳細に論じた
もの。これらの都市はいずれも地中海世界において自主独立の都市国家としてイタリア国内のみならずアラブやイスラム世界と
も交易、交流をもち勢力を誇っていた都市である。その地理的地形的背景により独自の街並を形成し文化を繁栄させていた。
たんなる観光都市としてではなくそれぞれ独自の都市政策を発展させていこうとしている現在も視野に入れている。
 巻末には、イタリア都市国家の詳細な年表、参考文献、建築史用語解説などがまとめられていて非常に参考になる。

「ミラノ 霧の風景」 
     須賀 敦子      白水社    白水Uブックス1057     2020年
  日本への帰国後10数年たってから文筆活動によって世に出た方。イタリアでの日々の暮らし、結婚生活、友人知人との交流、
など13年間のイタリアl暮らしを綴ったエッセイ(?)。講談社エッセイ賞、女流文学賞を受賞している。
まず、文章の美しさ、みずみずしさに引き込まれる。それは、イタリアの文化や知識をひけらかしたり伝えようとしているでもなく、
旅行者の目で語るでも全くない。ミラノ、ナポリ、トリエステにしても家族や知人との関係の中で語られる日記のようでもある。
白水社の須賀敦子コレクションの中の一冊。


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